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西国三十三ヶ所、四国八十八ヶ所 などの掛軸仕立替 | 三木市
西国三十三ヶ所や四国八十八ヶ所などの霊場を巡り、納経軸(集印軸)を掛軸にする要望は全国でよくあると思うのですが、最近たまにあるのが既に仕上がった霊場集印軸を仕立替してほしいという要望です。
理由は
「ご先祖様が作った霊場集印軸があるけど表装裂地が貧相で気に入っていない。自分はもっと良い表装にしたいがせっかく家にあるので自分が一から霊場を巡って作るよりもご先祖様が作ったものを仕立替して使いたい。」
「ご先祖様が作った霊場集印軸が古くなり傷んできているので仕立替してほしい。」
などです。
さて、この霊場集印軸の仕立替ですが実は普通の掛軸の仕立替よりも随分と気を遣う場合が多いのです。例えば四国八十八ヶ所ですが、単純に88ヶ寺分の集印があります。お寺ごとに当然揮毫する方も違うので88通りの墨と朱肉の状態があり、時間も経過しているのでそれぞれの状態もバラバラなのです。墨や朱肉の膠成分が弱っている可能性もそれぞれにあるのです。
なので霊場集印軸の仕立替・・・特にシミ抜などは全体に同じ濃度で薬品を使うのが基本なので墨流れや滲みなどの不具合がどこかで起こらないかを非常に気をつけなければなりません。特定部分のシミを抜こうと薬剤の濃度を濃くしてしまうと他の膠成分が弱った集印の部分に不具合が起こる場合もあるのです。しかし薬品の濃度を弱くし過ぎるとシミは抜けない・・・このジレンマの中で格闘しなければならないのが霊場集印軸の仕立替・シミ抜なのです。
弊社が西国三十三ヶ所や四国八十八ヶ所の仕立替、特にシミ抜の相談を受けた時はこのリスクをしっかりとお客様に説明し納得していただいた上で行います。もちろん不具合が起こらないよう細心の注意と下準備を行いますが、他の掛軸と比べるとリスクも高いので本当に「やってみないとわからない」としか言いようがないのです。そんな表具師の事情も理解していただいた上で、それでも仕事を依頼したいという場合のみお受けさせていただいております。
お客様の中には、リスクを知ってキャンセルされる方もいらっしゃいますがそれで良いと思っています。お互いがお互いの状況をしっかりと把握した上で仕事を依頼し、細心の注意を払った上で仕事を行う・・・これがフェアだと思いますから。
四国八十八ヶ所(お遍路さん) 納経軸(集印軸) 仕立替・シミ抜の依頼 | 三木市
さてっ・・・そんな霊場集印軸の仕立替ですがきちんとリスクを説明した上でそれでもやってほしいという依頼を受けました。兵庫県の 三木市 のお客様からです。
依頼人の祖母が巡って仕立てた掛軸ですが、表装が安っぽいのとシミが出てきているのがどうしても気になっていたそうです。
とりあえず拡大して症状を見ていってみましょう。拡大してよく見ると細かいシミがたくさん出ているのがわかります。こういった納経軸の真ん中に描かれている弘法大師などに使われている絵具類もよく色が落ちたりするので注意が必要なのです。
左側にシミが発生しています。
こちらも左側に・・・。割愛していますが全体的にこの程度のシミが多く発生している状態でした。
表装仕立替 シミ抜き
表装仕立替を行いました。
作業を行う前の色止めを念入りに行い、シミ抜を出来る限りで行いました。
新しく選ばれた仏表装パターンはNO17の玄武でした。
本金の超高級裂地を選ばれるあたりに本当にこだわりを感じます。
さすが超高級裂地です。写真ではなかなか風合いが伝わえにくい裂地なのですが荘厳な印象を受けます。
王冠をモチーフにした紋様を本金糸で織りあげた格調高いデザインです。
中廻しも外廻しも光り輝いています。
軸先には透かし金軸を使用しています。
肝心のシミ抜の方ですが以下の写真をご覧ください。
弘法大師の周りのシミも綺麗に抜く事が出来ました。
左端のシミも綺麗になりました。
こちらも綺麗にシミが抜けました。
他にも霊場集印軸ならでは細かい注意点が結構あるのですがそれはまた次回にでもご紹介いたします。
何にせよ綺麗にシミが抜けて何よりです。
しかし今後はこういった霊場集印軸の仕立替の依頼というのも増えてくるような気がするので今のうちに準備と経験を積んで慣れておきたいものです。
掛軸のシミ抜き作業についてより詳しく知りたい方はこちらの動画をご覧ください。
掛軸の修理修復工程をより詳しくご覧になられたい方は以下の動画で徹底解説しています。全4回に渡る長編の解説付の動画ですのでご興味ある方は是非ご覧ください。
四国八十八ヶ所の納経軸掛軸表装についてより詳しく以下の動画で紹介しておりますので宜しかったらご覧ください。