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中国製掛軸 の表装仕立替 | 友人からの贈り物の修理、仕立替
掛軸ははるか昔に中国から日本に伝わってきたものです。室町時代に日本では茶の湯の文化と相まって大きく独自の発展をし、ひとつの文化を形成し今日に至ります。中国でも日本の掛軸文化とは違った発達をし、様々な画題や作風が生まれました。現在でも多くの掛軸が愛好家をはじめ様々な人達に親しまれ飾られています。
今回はそんな 中国製掛軸 の表装仕立替の相談がHPから来ました。遠方の方の為、メールでのやり取りでの受注となりました。
目次
中国製掛軸
ご依頼いただきましたのはこちらの掛軸。
昔、長いお付き合いのご友人からいただいた掛軸のようでとても大切にされているそうです。随分と傷みが出てきているのが気になっているようで仕立替を希望したいそうです。中国の掛軸と日本の掛軸を見分ける絶対的な基準があるわけではないですが、絵の描き方、使用されている漢字の種類、表装の仕方や付属物などから判断します。
細かい折れが本紙にも表具にも見られます。今回はシミはそのままでも良いとの要望でした。
横から見ると掛軸の傷み具合がよくわかります。このまま放っておくと折れの部分から裂けが始まってしまいます。
表装裂地の選定・提案
今回のお客さんのご要望は作風も全体の色合いも落ち着いた作品なので、なるべく現状のようなシンプルで落ち着いた表装裂地と仕立てが良いとの事でした。表装の形式は現状と一緒 (袋表具 + 筋廻し) で進める事にいたしました。
筋廻しには現状と同じ白い筋を使う事にしました。
裂地は落ち着いた色柄のA~Dの4種類を提案する事にしました。
Aパターン
Bパターン
Cパターン
Dパターン
弊社はなるだけお客様が裂地を選定しやすくする為に、複数の仕上がりイメージをいつも作成します。これによりお客様の好みを探り、それに寄せていくように努めていきます。
今回のお客様のお好みはBパターンでした。
中国製掛軸 : 秋の風景画 仕立替詳細
さぁ、これで掛軸の仕立替の詳細が下記に決定いたしました。
+ 裂地: No. B
+ 表装形式: 袋表具 + 白い筋廻し
— 桐箱付+ 寸法: 現状維持
さぁ、中国製掛軸 の仕立替スタートです!!
表装: めくり / 旧裏打紙除去 | 中国製掛軸 をめくる際の注意点
掛軸や和額、巻物、衝立、屏風などの仕立替は全て旧裏打紙を剥す所から始まります。この作業は日本の作品でも中国の作品でも一緒です。作品の傷み具合と前回の表具で使われていた糊の状態によってめくる難易度が異なってくるのですが、修復作業の中で一番難しい作業と言われています。
中国製掛軸の仕立替は結構な確率で硬い糊を使っている場合があるので注意が必要です(経験談)。硬い糊を使っている場合、なかなか旧裏打紙が剥がれず、無理にめくろうとすると本紙がひっついてきてしまうので作品が破れてしまいます。その場合はさらに時間をかけて糊の粘着性を落とし、ゆっくりと少しずつ捲っていかなければならず大変時間がかかります。
今回もドキドキしながらめくりましたがこの作品はそれほど硬い糊ではなかったので安心しました。
表装: 裏打、仮張り | 本紙が硬い場合
旧裏打紙を除去するとシワや折れを伸ばし、新しい紙で裏打をしていきます。本紙の厚さ=硬さにより裏打の紙の種類や枚数を変えて仕上がりのバランスをとらなくてはいけないので入念なチェックが必要になってきます。
今回の作品も硬かった為、通常の方法を変化させて対応いたしました。(もし通常のやり方でそのまま行えば、硬い仕上がりになってしまい、掛軸を巻く際に再び折れが発生してしまいます。)
まずは作品の下に敷く当て紙に水分を与え伸ばしていきます。
この当て紙は作品の保護や汚れの付着防止などの為に敷かれますが、この紙が皺が入ったままだと作品もしっかりと伸びないのでまっすぐに伸ばす事が大切です。これが意外に素人では難しかったりします。
皺が伸びきったので当て紙の準備完了です。
次に作品を当て紙の上に置いて同様に伸ばしていきます。
このシワを伸ばす際にあまり水をかけすぎると作品の絵具や墨が流れてしまう事があるので注意が必要です。少しずつ水を与えては伸ばしていくがコツです。(例え色止めの薬剤でコーティングしていても流れるものは流れるのでやり過ぎは禁物です。)
作品が伸びました。小さな折れやシワ程度であればこれで伸びます。これで伸びないようなきつい折れがある場合は再び軸にした時に折れる可能性が高いので「折れ伏せ」という補強を裏からします。
折れ伏せ について: VIDEO
次に新しい裏打紙に糊を均一に与えていきます。
糊はしっかりとつけないと後で作品が剥がれてきますが、つけすぎると作品が硬くなり仕上がりの不具合につながるので丁度良いバランスが大切です。表具師は長い経験の中でその丁度良いバランスを学んで体得します。
裏打紙の端を木の棒に少し巻き込ませ、作品に裏打をしていきます。
刷毛でしっかり撫でこみをしながら裏打をしていきます。この時にシワになったり空気が入ったりしないように注意が必要です。
しっかりと作品と裏打紙が接着するように刷毛で撫でこみを何回も行います。
刷毛で裏打紙の上からたたき込みを行います。作品と裏打紙の接着力を高める為と、作品と裏打紙の間にある空気を抜く為に行います。
しっかりと裏打が終わったので、次は仮張板に貼り付けて乾燥させます。
周囲に糊を付けて仮張りに張り込むことで、乾燥に伴う収縮によって本紙は平らになります。仮張りに張り込んで乾燥させることで本紙の応力を調整し、掛軸に仕立てたときのバランスをとります。
表装: 付回し、切り継ぎ
裏打が終わると仮張板から作品を剥し、長方形にカットして裂地を貼り合わせていきます。
まずは裂地を必要な寸法でカットしていきます。
筋廻しに使う白い裂地もカットしていきます。
筋廻しにはこんなに細い裂地を作品に接着していきます。
必要なパーツが全てカットされ揃いました。今回は筋廻しも含めて合計8個のパーツを作品に接着していきます。
まずは白い筋廻しから作品に貼り付けていきます。
歪まないようにまっすぐ貼っていきます。
余分な部分をカットした後、裂地が解れたり毛羽立ったりしないようにする為に糊止めを行います。
次に筋廻しの外側の裂地を貼り合わせていきます。
こちらも歪まない様にまっすぐ貼っていきます。白い筋が見えるようにしないといけないので糊代は本当に僅か(約3 mm)です。
白い筋廻しの部分に薄茶色の裂地が貼ってある部分とまだ貼っていない部分とを見比べるといかに狭い糊代であるかが良く分かります。
余分な部分をカットして次の裂地を貼り合わせていきます。
つけ回し完成です。
表装: 増し裏打
本紙と表装裂の厚みや腰の強さなどのバランスをとる為に行う裏打を増し裏打と言います。増し裏打には吉野で漉かれた柔軟な美栖紙を用います。
表装: 裁ち合わせ
つけ回しをする裂地は少し大きめにカットしているので、つけ回しが完了すると必要な寸法にカットしていきます。これを「裁ち合わせ ( 断ち合わせ ) 」と言います。
表装: 耳折り
つけ回し、裁ち合わせの後に掛軸両端を内側に折り返す作業を「耳折」と言います。折り返す幅は掛軸の大きさによって異なりますが大体3.0 mm ~ 4.5 mmくらいです。
両端を糊で接着して耳折り完成です。耳折をする事により裂地のほつれを防止する事が出来、縁が厚くなる事で補強にもなります。また耳の部分が厚くなる事で掛軸を巻く際に両端が接点となり、本紙が直接掛軸の総裏紙と接するのを和らげるので本紙が擦れるのを防ぐ保護の役割もあります。何気ない工程ですが色々な意味合いがあります。
耳折が終わったら八双と軸棒を取り付ける為の袋を掛軸の上下に作っていきます。
表装: 総裏打
掛軸を仕立てる最終段階の裏打。巻き納めの取り扱いを滑らかにする為に行います。総裏打には宇陀紙を用います。
表装: 仕上げ
ここまで来たら完成までもう少し。仕上げの工程です。
総裏打の前に作られた八双用の袋に糊付けを行い、八双を取り付けていきます。
八双取り付け完了です。
八双に座金とカンを取り付け掛緒と巻緒を取り付けて掛軸の上部は完成です。
軸棒用の袋にも同様に糊付けを行い、軸棒を取り付けていきます。
全ての作業が終了しました。おかしい所がないか必ず複数回検品を行い完成とします。
再表装完成!! 古い掛軸が甦りました!
長い仕立替の工程を経て、ついに掛軸が完成いたしました。お客様のご希望の通り、落ち着いた色合いの裂地ですね。中の作品のサイズが小さいのでこれくらい優しい色合いがちょうど良いですね。
中国製掛軸 仕立替 | Before → After
細かい折れも無くなり、有り難いことに茶色のシミも目立ちにくくなりましたね。本紙が硬かったので裏打などを調整してみましたが、上手くしなやかな仕上がりになってくれて一安心です。
お客様の声
お客様から心温まるメッセージをいただきました。
この度は掛軸の修理をしていただきましてありがとうございました。桐箱に入れられた掛軸が届き拝見させて頂くと、前もって送って頂いていた写真の出来よりもさらに良い出来だったので感動いたしました。作品自身もとても綺麗になり輝きを増したようです。こんなに良くなるとは想像もしていなかったです! 数ある掛軸の中でもこの掛軸は私にとってはとても特別なものだったので本当に嬉しく思います。この掛軸をいただいた友人にも是非報告をしようと思います。
中国製、日本製を問わず掛軸をお持ちの方は多くいらっしゃると思いますが、昨今では仕立替をされる職人さんも少なくなり探すのにとても苦労しているというお話をお客様からよくお伺いいたします。今回のように修理に困られている方に弊社がお役に立てた事は本当に嬉しく思います。掛軸を仕立替する作業は、新しい掛軸を作るよりも多くの専門的な技術が必要になります。もし掛軸の仕立替や修復でお困りの方がいらっしゃいましたら是非弊社にご相談ください。
大切なもの 未来へ・・・
ダイジェスト動画: 中国製掛軸 の表装仕立替