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スイスから表装依頼 | 仏表装で書道作品を掛軸に
仏画や頂相、題目、墨蹟など仏教に関する礼拝用の書画の表装に用いる形式を仏表装(仏画表装、真表装)と言います。天地が中廻しを取り囲む事からそれを総縁(外廻し)と呼びます。(最近では礼拝用の書画に限らず、稀少な作品などにも用いられる事もあります。)
今回は スイスから表装依頼 をメールで頂戴いたしました。
目次
書: 無碍光の仏表装依頼
今回お問い合わせいただいた作品は上の写真。「無碍光」(むげこう)という作品で岡山県にある洞松寺のお坊さんに書いて頂いた作品のようです。「無碍光」とは「阿弥陀如来が発する神聖な光」の事のようです。サイズは若干小さめで 675 mm (縦) x 175 mm (横)、仕上がったら曹洞宗のお寺に寄贈して飾られるようです。
お客様からのご依頼はこの作品に合う最高級の仕立ての提案をして欲しいとの事でした。
「なるほど、お寺に飾られるくらいだから最高級の裂地での表装が良いのか…これはなかなか提案し甲斐のある仕事だ。」とはりきってさっそく数種類表装の提案を考えました。
6種類の表装提案
今回は「無碍光」という書だったので 仏表装 にてご提案することにいたしました。仏表装についてはこちらのリンクをご参照ください。書の内容が阿弥陀如来の発する神聖な光ということだったのと最高級の仕立てというご希望だったので全て本金襴の裂地にてご提案させて頂くことにいたしました。
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いずれも最高級クラスの裂地でのご提案です。最近はこれらのような高級裂地は品薄と生産者不足により値上がりが続いています。弊社でも在庫が無くなり、新たに発注しようとすると依然とは比べ物にならない程の値上がりに驚かされます。当然上記の提案の裂地も高額になってきますので、もしかしたらお客様のご予算を越えてしまうかもしれない懸念と本当に本金襴を所望しているのかという懸念があったので下記の文章をつけてご提案させて頂きました。
今回は最高の仕立てというご要望にあわせて本金襴の裂地でのご提案をさせていただきましたが、好みや予算がもしあればご遠慮無しにおっしゃってください。
素敵な勘違い
予感はやはり的中していました。言葉って難しいですね。インターネットが発達してメールで写真などがやり取り出来るようになってもやはり誤解は生じやすいものです。ただこういった誤解をいち早く気づく為にも、我々は労を惜しまずイメージ図を作成してお互いの考えの刷り合わせを受注前に入念に行うようにしています。お客様の意味する「最高級の仕立て」というのは高価な材料という意味ではなく、「作品を引き立てる最高の仕立て」というニュアンスだったようです(汗)。作品よりも周りの裂地が目立つべきではないというのを弊社のHPの過去記事の内容を読んでよくご理解いただけているようです。お客様は下記のようにこの掛軸が将来的に飾られる場所の状況や弊社のHPに掲載している掛軸を使って自分の好みを丁寧に伝えてくれました。
飾る場所は寺院ではなく、正確に言えば禅道場になります。寺院のようなイメージというよりもどちらかというと洋風な場所に飾る予定ですが、シンプルな色合いの空間になります。あまり艶やかな金襴ではなく自然で素朴なイメージの裂地の方でお願いいたします。禅宗の教義からもあまり派手なものは好まれませんので。ただ 仏表装 ででは表装していただきたく思います。飾る場所の写真やその周りにあるものの写真を送らせて頂きますので参考にしてください。
いかがでしょうか?もちろんこれだけではわかりにくいと思いますので御社のHPにある商品の中で私が気に入っている表装をいくつかピックアップいたしましたのでそちらも参考になさってください。
これは仏表装ではないですが、こういった渋い感じの表装が好みです。
この中廻しと外廻しの裂地の組み合わせは良いですね。
これはもしかしたら予算オーバーかもしれませんが中廻しと外廻しの裂地の組み合わせがとても素敵ですね。作品をよく引き立てていると思います。
この作品も良いですね。落ち着いた裂地の雰囲気が大胆に揮毫された作品にすごくマッチしています。
これも恐らく予算オーバーかと思いますがとっても気に入っています。私の作品ともこの組み合わせはきっと合うと思います。
私の予算で考えれば下のようなシンプルな仕立てになるかもしれません。(出来れば仏表装でしていただきたいですが)
軸先については以下の物が私の好みの物ですので参考にしてください。
ご無理を言って申し訳ございませんが、急いではおりませんのでご検討の程宜しくお願いいたします。
ここまでしっかりとHPを読み込んで具体的な好みを伝えてくれると本当にわかりやすいですね。外廻しや 仏表装 などかなり専門用語を使われているので読み込んだのが伝わります。HPをそこまで読み込んでくれたのはとても嬉しいです。その気持ちにお答えしてオリジナルの「最高級の仕立て」を一緒に考えていこうと燃えてきました!(笑)
3種類の新たな表装裂地提案
お客様の好みも掴めたので3種類の表装イメージを新たに作成いたしました。全て 仏表装 (真の行)で水晶風素材の軸先を使用する事にいたしました。
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成約
新たな3つの提案の中からお客様はImage 009 を気に入ってくれました。お客様の意図をきちんとくみ取れた提案が出来たという事はとても嬉しいです。あとは現物確認をして最終見積もりを出す流れなのでさっそくお客様は作品を弊社に送ってくれる段取りとなりました。
作品到着!!
お客様の元から無事に弊社にまで作品が届きました。スイスから表装依頼 でしたのでまずは届いて一安心です。
作品も実際にチェックさせていただきましたが取り立てての問題は無かったです。お客様に最終的な仕上がり寸法に何か制約があるかを尋ねると「特にはないのでプロの美意識と経験にお任せいたします。作品が一番引き立つようにして下さい。」との事でした。これは弊社を信頼してくださってのコメント、是非期待に応えられるよう全身全霊で表装スタートです!!
表装 : 作品の肌裏打
まずは本紙の支持となる紙を、本紙の裏面に直接貼り付ける裏打作業を行います。用いる紙のことを肌裏紙といい、薄美濃紙など比較的薄くて丈夫な紙を用います。
本紙の裏面から湿りを入れて作品をしっかりと伸ばします。
力を入れすぎると作品が破れる恐れがあるので優しく丁寧に刷毛で撫でてシワを伸ばしていきます。
赤い印の部分のようなシワを無くしていきます。
肌裏紙の裏面に糊をつけていきます。紙本の肌裏打には水状の薄い糊を用い、絹本にはやわらかいペースト状の濃い糊を用います。
均一に糊を塗り終えたら、糊を付けた裏打紙の片辺を掛棒に掛けて持ち上げ移動させます。
本紙の裏面に裏打紙をのせながら撫刷毛で撫で付けていきます。表具の際には数種類の刷毛を用途毎に使い分けます。
裏打紙と本紙を圧着させる為に、撫で込みを行いながら刷毛で上から叩いていきます。
裏打が終わると仮張り板に作品を張り付け乾燥させます。
仮張り板に貼り付けて乾燥させる事により、乾燥に伴う収縮により本紙が平らな状態に仕上がります。
表装 : 付回し(切り継ぎ)- 何故 仏表装 (真の行)は手間がかかるのか? –
今回は大和表装の中でも真の行という仏表装を行います。仏表装は古来より仏画や題目、墨蹟など仏教に関する礼拝用の書画の表装に用いられてきた形式であり、転じて大切な格式の高い作品を表装する際にも用いられます。格式の高い作品をより引き立つように魅せる為に、非常に多くの裂地のパーツを組み合わせて表装します。下記の図のように20個もの裂地のパーツを組み上げます。
一般的な画題の作品によく用いられる三段表装(行の行) が10個、丸表装が6個なのと比べるとその手間は倍以上になってきます。
これが今回の付回しで使用する裂地一式です。
裂地の端はこのように織り糸が出ているので糊止めを行います。
この作業は全ての裂地のパーツに対して行われるのでそれだけでも真の行表装は大変です。
糊止めが終わると裂地に糊を付けて作品に貼り合わせていきます。
紺の細い筋も一つ一つ貼り合わせていきます。
次に中廻しの裂地を貼り合わせていきます。
紺の細い筋をわずか3 mmほどのみ見えるように貼り合わせていく非常に細かい作業です。
中廻しまで終了しました。まだまだ全工程の半分くらいです。先は長いですね。
中廻しの外側に回す白い筋を貼り付けていきます。
最後に外廻しの裂地を張り合わせていきます。あともう少しです。
ほんの少しだけ見える細い白い筋を作り出すのに実はこれほどの手間隙がかかっているのです。
ついに付回しが完成です。真の行表具は手間がこれだけかかる分、作品がとても良く引き立ちます。
表装 : 増し裏打
増裏打ちは、本紙と表装裂の腰の強さを整える為に施します。薄く腰の弱いものには厚手の紙を、腰の強いものには薄手の紙を裏打ちしてバランスをとります。これによって巻き解きがスムーズになります。
表装 : 裁ちあわせ(断ちあわせ)
中裏打の後、仮張より作品をはがして寸法にあわせて正確に切り揃えます。
表装 : 耳折り
掛軸の端を一定の幅(3 mmから4 mm)で折り返す作業を「耳折」といいます。表具布はある程度の硬さがあるのでそのままではきれいに折り返すことが難しい為、あらかじめ折り目を付けておきます。そうすることで、裂地が折り返しやすくなります。
折り返した部分に糊を付け、接着していき完成させます。
耳折をする事により裂地のほつれを防止する事が出来、縁が厚くなる事で補強にもなります。
表装 : 総裏打
最後の裏打を「総裏打」と呼び、掛軸全体のバランスを調整する裏打となります。
表装 : 仕上げ
最後の仕上げの作業です。地味に見えますが裁縫の細かい技術などが必要となります。
掛緒を取り付けるためのカンの位置を決めていきます。
カンを決められた位置に正確に取り付けます。
風帯を取り付けていきます。
針と糸で掛軸に縫いつけていく非常に細かい作業です。
風帯部分を良く見ると取り付けている白い糸を見る事が出来ます。
掛緒と巻緒を取り付けていきます。カンに巻きつけて固定する作業も慣れるまでは大変です。
軸棒を取り付けていきます。今回の軸先はお客様の希望で水晶風の軸先です。
仕上げ作業が終了し、ついに掛軸が完成しました!! なんだか神々しいですね(笑)
仏表装 (真の行)が作品「無碍光」の書を格調高く引き立てました!
通常は外廻しの方に紋の大きな裂地を配した方が見た目のバランスが良いのですがそれを敢えて中廻しに使用し、外廻しを落ち着いた色柄に抑えることにより中廻しを引き立てる効果が生まれ全体的にまとまりのある仕上がりとなっています。
「無碍光」の光が中廻しの金襴で表現されているようです。紺と白の筋も綺麗に浮かび上がっていますね。作品に風格が出ました。
禅道場に作品を飾っていただきました。
無事にお客様の元に掛軸が届きました。とても気に入っていただけているようでお客様から実際に禅道場に飾って頂いている写真が送られてきました。弊社で仕立てさせて頂いた掛軸がこのように立派に飾られていると考えると感慨深いものがあります。
ひとつの掛軸を表装するまでのお客様との膨大なコミュニケーションが我々の宝。
弊社は掛軸の製作についてはお客様とのコミュニケーションを非常に大切にしています。今回はお客様がご自身の好みを弊社の商品画像を使って伝えてくれたので非常にイメージがしやすかったです。「無碍光」の書道作品をしっかりと真表装により引き立てる事が出来、またお客様にご満足いただけて本当に嬉しく思います。お客様の好みを探しながらのコミュニケーションは、まるでひとつの作品を完成させる為のお客様との共同作業のようでとても楽しく感じます。
掛軸表装をお考えの方は是非、我々と一緒に作り上げていきませんか?お問い合わせをお待ちしております。
大切なもの 未来へ・・・
ダイジェスト動画: 仏表装 (真表装)で書道作品「無碍光」を格調高く引き立てる