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ドイツ から激しく傷んだ掛軸の修理依頼
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ドイツ から激しく傷んだ掛軸の修理依頼
弊社には海外のお客様からも掛軸に関する様々なご相談が寄せられます。今回は ドイツ のお客様から傷んだ掛軸修理に関するご相談を頂戴いたしました。ご相談いただいた掛軸がこちらです。お客様より写真をお送りいただきました。
写真を拝見するに、掛軸の状態は相当に悪いように見えます。
恐らく絹本に描かれているのですが、作品に傷のように色が変わって見えている部分は恐らく旧裏打ち紙を剥がすと作品が裂けてしまう危険な状態です。
その他にも既に裂けている部分も見てとれるのでかなり危険な状態といえるでしょう。
作品の破損を最小限に抑えながら作品の仕立替を行う高い技術が必要となります。作品が傷ついたり欠損している部分は色が斑になってしまっているので補彩という作業を行い自然な色合いにする事をお客様にお勧めいたしました。
作品に付着している汚れは作品の状態を見ながら可能な限りの除去にとどめておいた方が良いと感じます。
作品の状態を写真から判断出来る弊社の見解をお客様にお伝えすると、お客様は
「仕立替の際に作品がさらにひどくなる事はないか?」
というのをものすごく気にされていました。
気持ちはとてもよくわかります。なんせドイツから海を越えて自分の掛軸の修理を頼もうとしているのですから心配になりますよね。逆の立場で僕が海外に何か修理に出す事を考えたらやっぱり心配になりますし。
ここで「100%絶対に大丈夫です。」と言い切ってしまった方がもちろん格好良いのですが弊社は敢えて言いきりません。熟練した表具師であればあるほど作業中の怖さも熟知しているからです。
ただ弊社は50年近くこの仕事を続けており、その修理に対する知識や経験を最大限に活かし修復作業に取り組んでおり多くのお客様からも評価をいただいております。
作業は行ってみなければわからない部分もありますが、お客様が弊社にご依頼いただけるのであれば100%のベストを尽くして修復作業を行わせていただこうと常々心がけております。
お客様には上記の旨をお伝えし、最近弊社で行った絹本の掛軸修理の写真を送らせていただきました。随分と劣化が進んでいましたが、弊社の修復技術を用いて甦らせた掛軸でお客様の掛軸の状態とも通じる部分があるので参考になると思い以下のようにご説明させていただきました。
絹本で下の写真のような折れが発生している場合は間違いなく旧裏打紙を剥がすと裂けて作品が欠落します。
弊社は旧裏打紙を除去した際に起こる作品の欠落を最小限に防ぐ為に、特殊な方法を用いて旧裏打紙を除去します。下の写真はその方法を用いて旧裏打紙を除去した後に新しい裏打を行った状態です。
作品の欠落を最小限に抑えた状態でも多少の裂け目は残ります。
これらの裂け目に補彩を行い、裏打紙の裏から裂け目に折れ伏せという補強を細かく行い修復作業 完了です。新しく仕立替をした掛軸がこちらです。
補彩により裂け目がほぼわからない程度まで修復されました。
弊社では元々ダメージがあった部分の欠落等は出来る限り抑え、見た目に綺麗に仕上がるよう配慮して修復作業を行わせていただいております。
お客様もこの説明にご納得された様子で作品を弊社の方にお送りいただけました。
作品到着
作品が手元に届くと思っていたよりも随分と作品の状態がひどい事がわかりました。全体的にひどいのですが特にひどい部分を拡大しているので下の写真の赤丸をご覧ください。
既に作品が割けてしまっていて絵の部分や絹地の部分が欠落してしまっています(汗)
赤丸部分以外にも同様の損傷が至る所に見受けられました。
傷跡のように色が無くなってしまっている部分はおそらくひっかき傷によるものだと思います。これは絹地が劣化した結果、脆くなり外部の衝撃に弱くなった結果出来上がったモノだと思います。
傷んだ掛軸 修理 詳細決定
実際に作品を手に取って確認させていただき、お客様とも様々な打ち合わせをさせていただき以下の内容で修理を行う事が決定いたしました。
- ・洗浄、シミ抜きに関しては水洗い、もしくは低濃度の洗浄剤で短時間でのみ行う。
- ・傷みがひどい箇所には肌裏打を行った後、裏側から折れ伏せによって補強を行う。
- ・補彩を行う。
- ・表装の形式: 行の行スタイル
- ・仕立てサイズ: 弊社にお任せ。
- ・太巻仕様: 傷みが激しいので作品保護の観点から太巻スタイルの桐箱にて収納される事をご提案させていただきました。
- ・表装裂地: 以下の裂地にて。
修理作業開始
傷んだ掛軸 の旧裏打紙除去
旧裏打紙を除去した際に起こる作品の欠落を最小限に防ぐ為に、特殊な方法を用いて旧裏打紙を除去します。特殊な方法により無事にスムーズに旧裏打紙を除去出来ました。
洗浄
作品保護の観点から必要最小限の洗浄を行いました。それでも汚れはかなり除去出来ました。
肌裏打
新しく裏打をする事でシワや折れも伸ばす事が出来ました。既に裂けていた部分も何とかキープする事が出来ました。
補彩
補彩作業に関しては当初予想していたよりもかなり苦戦いたしました。というのもこの絵が描かれている絹が艶と光沢があり、絵具を傷跡の部分にいれていこうとすると角度によって見え方が異なってしまうのです。
かなりの時間をかけて補彩を行いました。この辺が限界かなという所です。お客様にもあらかじめお伝えしておいたのでご了承いただけました。
それでも最初と比べると随分と自然に見れるようになりました。
折れ伏せ
作品が折れてしまっている部分はそこだけ紙の繊維が弱ってしまっている状態ですので、そのままの状態で仕上げると再び折れが発生しやすい状態です。折れの再発を防止する為に裏から細い和紙を添え木のように接着し、補強をする必要があります。この補強で接着する和紙を「折れ伏せ」と言います。
付け回し
耳折
仕上げ
傷んだ掛軸 の修復: 修復作業完了
長きに渡って作業を行ってきた掛軸の修復がついに完了いたしました。掛軸も見違えるように復活しました。
今回は作品の保護の事を考慮して、太巻で保管する事をお勧めいたしました。折れ伏せを行って補強されていても作品が傷んでいる事は変わらないので長いスパンで考えると太巻で直径を大きく巻くようにした方が絶対に良いと感じたのでお客様にご説明し、ご納得していただけました。
太巻の扱い方についてはこちらの動画をご覧ください。
お客様からの声
仕上がった掛軸が無事に ドイツ のお客様の元に届き、お客様から喜びのメッセージとお写真を頂戴いたしました。
Today we have picked up the package at customs and everything went smoothly.
Thank you again for your wonderful work. The painting has been restored beautifully and the new box fits perfectly.
Please find the attached photo of the current place for the kakejiku. It may not be the final resting place and I plan to place an ikebana on the chest.
Regrettably, the light was not perfect.
―和訳―
今日税関で荷物を受け取ってきたよ、特に問題なくね。
改めて素晴らしい仕事をありがとう。作品はとても綺麗に修復されているし新しい箱はこの掛軸にぴったりだよ!
掛軸の今の状態の写真を送るね。もしかしたらまた場所を変えるかもしれないけど、近いうちにこのタンスに生け花も置こうと考えているんだ。
ライトがあるのはちょっと残念だね(笑)
なかなかこだわりの飾り方があるようですが喜んでいただけて何よりです。
弊社は日本だけではなく海外のお客様の様々なニーズにもお答えしております。お知り合いの海外の方で掛軸について何かお困りの方がいらっしゃいましたら是非弊社をご紹介ください。
動画