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カナダ人日本画家から掛軸の表装依頼
カナダ人日本画家から掛軸の表装依頼
今回はこちらの四点の作品を掛軸にしていく仕事をご紹介させていただきます。
こちらの作品はなんとカナダ人の日本画家さんが描かれたもので、正直カナダの方が日本画をこれほど上手く描かれているのに驚きました。
こちらは「唐獅子に牡丹」。日本の伝統的な画題を色鮮やかに描いていて綺麗ですね。
こちらは「喫茶去」というタイトルの作品。「喫茶去」とは禅語で直訳すると「まぁ、お茶でも召し上がれ」という意味ですけども、茶道では「相手が誰であろうと平等にお茶をふるまう精神が大切」という意味合いになります。今回は狐がお茶を振る舞うユニークな姿で描かれていて可愛らしいですね。
会社から私の自宅に帰る途中にいつも出会う犬がいるんですけどもその犬に非常に似ているので実はすごく愛着があります(笑)
こちらは不動明王図。真言宗では大日如来の化身として信仰される対象でよく画題として選ばれます。雲の描写もなかなか勢いがあって良いですね。
こちらは地蔵菩薩。表情がすごく可愛らしいですね。蓮の上に乗っている構図で非常に全体のバランスを整えるのが難しいはずですが見事に描ききっていますね。
表装工程
色止め
まず表装するにあたって「色止め」という作業を行っていきます。こちらの作品の絵具や墨は膠で定着しているとは思うんですが、表具する際に大量に水を使うのでその水で絵具が流れたり墨が滲んだりしてしまわないように絵具や墨を定着させていきます。
「色止め」にはこういう風に専用のスプレーを吹きかけていきます。気を付けなければいけないのはこのスプレーの水分で絵具が滲んでしまうということもあるので一気に大量にスプレーをせず、少しずつスプレーして乾かしてを繰り返します。少しずつ水分を弾くコーティングの層を重ねていくようなイメージですね。特に濃い色や鮮やかな色は作品は滲みやすいのでしっかりと止まってるかどうかを見極めることが肝心になってきます。何回もコーティング作業を行いうので色止めを完了するのには時間が結構かかります。
肌裏打
次に裏打を行っていきます。まずは作品に水分を与えて作品のしわを伸ばしていきます。ここであまり水を使いすぎると絵の具が滲んでしまう可能性があるので最小限の水分でしわを伸ばしていくことが大切です。
次に裏打紙に糊を塗っていきます。和紙には縦の繊維と横の繊維があるのでそれぞれに糊が馴染むように縦にも横にも刷毛を滑らして糊を塗っていきます。
糊が塗り終わったら裏打紙にホコリやゴミなどが付着している場合があるのでそれらを一つ一つ出来る限り取っていきます。もし残った状態で裏打をしてしまうと作品と肌裏紙の間にゴミが挟み込まれるような状態になってしまいます。目を凝らさないとわからないような小さなゴミなどの場合が多いですがエチケットとしてなるべく取っていくようにします。
では裏打紙を作品に刷毛を使って接着していきます。
作品と裏打紙の接着が終わったら刷毛で作品と裏打紙の間に存在する空気を抜いていきます。ここに空気が残ってると乾燥させた後に作品が裏打紙から浮いてくるという不具合が発生するのでしっかりと空気を抜いてあげる必要があります。
空気を抜き終わったら刷毛で裏から叩いてきます。こうすることで裏打紙の繊維と作品の繊維が絡まってより強く接着するという効果が生まれます。
裏打が終わったら今度は仮張りといって板にかけて乾燥させていきます。板に貼り付けるために裏打紙の回りに糊をつけていきます。これを回し糊といいます。
この状態でしばらく乾燥させます。あと3点作品の裏打が残っているのでどんどんいきます。
これで四枚の肌裏打終わりました。疲れましたね(苦笑)四枚全部一気に打たなくてもよかったかなと思いますけどもせっかく同じ人の作品なので全部一緒に打ってしまいました。これで2~3日乾かした後、次は作品に裂地を張り合わせていく「付け回し」という作業に移っていきます。
付け回しの準備
乾燥が終わりましたので作品を仮張の板から外していきます。
剥がし終えました。
板の方には何も付着していないですね。綺麗に裏打ができている証拠です。こんな感じで残りの作品も剥がしていきます。
仮張から外してどれも問題なかったので今から作品に裂地を貼り合わせていく作業に入ってきます。まず作品に裂地を貼り合わせるにあたって作品の四辺を直角に綺麗にカットしなければいけません。
次に作品にあわせて裂地の準備をしていきます。今回のお客様はカナダのお客様なので裂地の表装のイメージをどういう風にされるかっていうのをあらかじめメールでやりとりをさせていただきました。何パターンかそれぞれの作品ごとにイメージ図を作成して、その中からお客様に選んでいただきました。今回選んでいただいた掛軸の表装のイメージはこちらになります。このイメージ図通りに裂地を段取りしていきます。
裂地のカットが終わりまして準備が終わりましたのでそのカットした裂地を作品の周りに配置してみました。なんとなく出来上がりのイメージが湧くんじゃないかなと思います。
こちらが「地蔵菩薩」です。日本では紫色というのは仏教で良く使われる色なので、地蔵菩薩という仏教の画題にしっかりとマッチしていますね。
こちらが「狐」です。狐の毛の色合いとこの裂地の色が合っているので統一感があって良いですね。
続いて「唐獅子に牡丹」と「不動明王」の裂地をセットしてみました。
「唐獅子に牡丹」は牡丹が描かれているので牡丹柄の裂地が選ばれました。力強いイメージの作品なので重みのある渋い裂地で統一しました。
「不動明王図」は仏画なので「真の行」という仏表装で仕立てる事にいたしました。
この紋は輪宝紋(りんぽうもん)と言い、昔から日本でも使われている仏教のシンボルです。
この輪宝は仏教では武器として考えられているみたいです。今回は不動明王の絵の中にもこの輪宝が描かれているのでこちらの裂地を提案させていただきました。
不動明王は力強いイメージなのでこういう金襴で織られた輪宝紋の裂地が似合うんじゃないかなと思ってましたけど実際裂地を置いてみると凄く作品が浮き上がって見えるので自分の見立てが間違ってなかったというのは非常に嬉しいです。
段取りしたこれらの裂地を作品に貼り合わせていく作業「付け回し」に移っていきます。
付け回し
耳折
風帯づくり
仕上げ
完成
ついにこちら四点の掛軸の表装が終了いたしました。さすがに四点もあるので画面いっぱいいっぱいですね(汗)どれも良い感じに仕上がったと感じています。
地蔵菩薩は全体的に渋い感じの風合いの裂地でまとめています。
唐獅子に牡丹の掛軸は表装の柄も牡丹で合わせています。
喫茶子の掛軸は狐の色と表装の裂地の色を合わせています。
不動明王は金襴で表装する事で不動明王の力強さを引き立てています。
掛軸の表装は裂地の柄であったり色合い、組み合わせ方など様々な要素で中の作品の魅力を引き立てていくのが大切であり、ここがで表具師のセンスの見せ所です。
今回の作品をお客様に喜んでもらえたら嬉しいなと思います。
弊社では今回のように掛軸の裂地や仕立てにもこだわっておりますので何かこだわりのご要望がございましたらぜひぜひお気軽にご相談下さい。
動画: カナダ人の日本画家から掛軸の製作依頼