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日本の美術品: 巻物、和額、衝立、屏風について
弊社は掛軸以外にも様々な日本の美術品を扱っています。
例えば巻物や和額、衝立や屏風など。これらの製作も行いますし修復も行います。
今回はこれらの美術品についてそれぞれ紹介、解説をしていきたいと思います。
巻物
巻物は掛軸と同じような形状をしていますが、掛軸が縦方向に広げて飾って楽しむのに対して、巻物は横に広げていき、見た部分を巻いて納めながら次の部分を広げる扱い方をします。
感覚としては掛軸が鑑賞作品で巻物は読物のようなイメージです。(もちろん絵巻などは鑑賞用です。)
大昔は本のような形態はなかったのでこういった巻物で物語を見たり読んだりしていました。なので必然と掛軸より作品部分が長い場合が多いです。
長い物では作品部分が数十メートルのようなものもあります。
大抵の場合は長い一枚物の和紙に作品が描かれている事はなく、何枚かの和紙を糊で継いで長い作品にしていきます。
通常は巻物にする際、和紙一枚一枚に作品を描いた物をバラで我々のような表具師に渡し、表具師がそれらを和紙で裏打ちして1枚ものに継いでいきます。
最近では巻物は日本のアニメのナルトや忍者人気の影響で海外の方でも知っている方が多いかもしれません。
忍者のイメージですと奥義や秘伝の法ばかりが書かれているイメージですが、旅日記や物語など昔は様々な物が巻物に仕立てられました。
下の写真は日本最古の漫画と言われる「鳥獣人物戯画」の巻物の一部です。
こうした巻物の製作や修理も弊社では承っております。
和額
日本では昔から主に和室の欄間と呼ばれる部分に書や画の額装作品を飾ってきました。
今では日本も洋風の家が多くなり、リビングなどに洋風の額装作品を飾る人も増えましたが、昔はこういった和室の欄間に飾る額が主流だった時代もあったんですね。
こういった和室のしつらえに馴染むような額を「和額」と呼び、欄間に飾る和額を「欄間額」と言います。
欄間額は欄間という特殊な場所に飾る為、必然と横長の作品が多くなります。
昭和の後期くらいまでの欄間額は表面にガラスなどの保護材が無い状態の物がほとんどで作品が外気に直接触れるむき出しの状態でした。その為、外部からの衝撃に弱く破れやすかったり、外気の影響でシミや汚れが発生しやすい状態でした。
現代ではアクリルガラスを表面に取り付けた額装が主流なのでそういった心配も随分と解消されました。
和額の棹は色や太さ、材料などにより色々な種類が存在しますが、その大部分は木材です。
作品の多くは和紙で裏打された状態で額に直接接着されている場合がほとんどですので仕立替をする場合は額から作品を剥がさなければなりません。
この作業は難易度がとても高いので一般の方がされるのは絶対に止めておかれた方が良いです。作品が額に直接接着されている場合はそのままの状態で我々のような表具師に相談してください。
また古い額はほとんどの場合、再利用出来ません。
よく古い額を流用した方が新しく額を製造するよりも安く仕上がると勘違いされている方がいらっしゃいますが、古い額は再利用を前提として作られていない場合も多く、無理に再利用しようとすると表具師の手間が何倍も増える上に、長い年月で額に使われている木材も損傷が発生していたり劣化している場合も多いので綺麗に仕上がらない場合がほとんどです。
手間がかかって費用が高くなる上に綺麗に仕上がらないのでは意味がないので、新しい額を利用して仕立替する場合がほとんどです。
弊社はこのような欄間額を含む和額の表装や修理も承っておりますし、プロの画家が描いた作品を額装した商品も既製品として販売しております。
下の写真は京都の清水寺の貫主である森 清範 氏に揮毫していただいた作品を額装にした商品をご購入いただいたお客様の写真です。
こちらは兵庫県の淡路島にある寺院から依頼を受けた額の修理案件です。
衝立
衝立は、日本の家屋で用いられるパーティション用家具の一種で、間仕切り、目隠し、風除け、装飾性・芸術性などを目的に用いられてきました。
大きなボードを外枠に挿入し、台座に取り付けて直立させるのが特徴です。
この衝立には様々な種類がありますが、絵画や書などの作品をボードに貼り込み、芸術作品として鑑賞する物も存在します。
両面に作品を貼って楽しむ場合もありますし、片面のみに作品を貼り裏側は無地の裂地を貼るだけの場合もあります。
衝立は基本的には作品が貼り込まれているボード部分とそれを直立させる為の枠の部分が分離する構造となっている為、修理をする場合は枠と台座からボードを外し、ボード部分から下地や作品を剥がし、新しい下地をボードに貼り、その上に修理が完了した作品を貼り込みます。
その上でボードを既存の枠と台座にセットして仕立替が完了します。
弊社はこのような衝立の表装や修理も承っておりますし、プロの画家が描いた作品を衝立にした商品も既製品として販売しております。
屏風
屏風は部屋の仕切りや装飾に用いる調度品の一種。木製のボードに紙や裂地などを貼る事で補強と装飾を行い、そのボードに書や画の作品を貼り込んだ物を複数枚繋げて折りたためるようにしたものです。
本来は室内の間仕切り、装飾、風除けなどに使用される調度品でしたが、次第に美術品として鑑賞の目的を持つようになりました。
屏風は大きいものになると6枚のボードをつなげた物になり、画面サイズも非常に大きくなります。また左右が対になったセット物で作品が描かれる場合もあるのでその場合は12面分の広さを持つキャンバスという事で日本の美術品の中では障壁画に次ぐ画面サイズを有します。
しかし屏風は使用しない場合はコンパクトに折りたたんで収納する事が出来、ボードも特殊な構造で作られている為、重量が軽く持ち運びにも便利なのが特徴です。
その為、明治以降に行われた多くの美術展覧会の出品形式としても用いられました。会場に運ぶのにも便利ですので巡回展のように会場が移動する場合などには重宝したそうです。
そういった理由からこの時代には非常に多くの屏風作品が製作される事となりました。(残念ながら現代の展覧会の殆どは額装作品での出品が基本となっています。)
また、江戸時代末から明治時代以降にはジャポニズムの影響もあり欧米でも求められるようにもなった為、海外で屏風を所有されている愛好家の方も一定数いらっしゃるのではないかと思います。
屏風も修理をする場合は、和額と同じで下地のボードは再利用しない場合がほとんどです。
弊社はこのような屏風の表装や修理も承っておりますし、プロの画家が描いた作品を屏風にした商品も既製品として販売しております。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
もちろん巻物、額装、衝立、屏風それぞれにもっと細かな仕様や違いがあるのですがまずざっくりとしたイメージをつかむ事が出来たのではないでしょうか?
もしこれらの美術品で何かお困りの事やご要望がございましたら弊社の方で承っておりますので遠慮なしにご相談ください。