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掛軸のシミが完璧には抜けなかった例
掛軸などの美術品で良くあるお悩みがシミが発生してしまったので何とかしてほしいというご相談です。
様々な要因で掛軸にはシミが発生してしまう場合があるのですが、この原因も様々なのでシミの症状も千差万別。
色々なシミ抜きの方法があるのですが、何をしてもビクともしないシミというのも残念ながら存在いたします。もはやそれは「シミ」としてひとくくりにしてまとめて良いのかどうかすら疑問が浮かびますが・・・(;´Д`)
表具師の中でも一番苦労する仕事がシミ抜きといっても過言ではないかもしれません。
今回はそんな掛軸のシミ抜きのご依頼をアメリカにお住いの男性のお客様より頂戴いたしました。
お預かりした作品がこちらです。前の作品の持ち主が額に入れる為に、掛軸の上下の部分をカッターで切ってしまったようです。今回のお客様はこの作品をもう一度掛軸に仕立て直ししたいそうです。
作品の下部にかなり濃い茶色のシミが点在しているのがわかります。
ここまで濃いシミだとおそらく完全に抜ききるのは難しいというのをお客様にきちんとご納得いただいた上で、仕立替を行う事となりました。
詳細打ち合わせ
お客様と仕立替の詳細について打ち合わせをさせていただき、以下の通りで実行する事になりました。
シミ抜き: 完璧に綺麗にならない可能性がある。
表装形式: 丸表装
オプション: 一文字落とし、桐箱付
裂地: 以下の写真の通り。
修理工程
今回の大まかな再表具のオペレーションの流れは以下です。
色止め (薬剤で絵具を定着。)
↓
作品解体 (古い裂地や軸棒などの取り外し。)
↓
旧裏打紙を除去 (作品の裏側から旧裏打紙をめくって除去。)
↓
洗浄 (薬剤を用い、出来る限り綺麗にします。)
↓
再表具 (お客様のご要望の裂地で掛軸に仕立てていきます。)
シミ抜き中の様子。部分的にシミを抜くのではなく全体にシミ抜き剤を塗布します。
やはり頑固なシミでなかなか落ちません。あまり強力にシミ抜きを行いすぎると他の部分の絵具が落ちてしまったり、全体が変色してしまったりするので加減が必要な非常にデリケートな作業です。場合によってはシミが落ちきっていなくても作品全体への影響を考慮してシミ抜きを終了する場合もあります。
修理完了
シミ抜きを行ったので全体の汚れが落ち、作品の彩度がよみがえりました。
若干シミが残りましたが、当初と比べると薄くはなり目立たなくなりました。ここまでが限界だと判断いたしました。
お客様にもシミは完璧に抜けきれなかった旨を出荷前にご報告し、写真をお送りさせていただきました。
お客様は表具の仕事を大変理解してくださっており、仕事の出来に喜んでくださいました。
Dear Nomura-san:
Thank you for your email reply and update. I appreciate your trying to remove the stains and I think your decision not to over-clean the area is the right one. It looks just fine to me.
野村さんへ。
メールの返信と更新ありがとうございました。 汚れを落とそうとする姿勢に感謝するとともに、過剰なクリーニングをしないという判断は正しいと思います。 私にはちょうど良い感じのように思います。
作品の方をお送りさせていただき、実際に作品をご覧になっていただいた感想が以下の通りです。
I was delighted to find it looking so good after your fine remounting. Your work looks first rate!! And the box and box container are also of very good quality. I really appreciate your fine craftsmanship.
このような素晴らしい仕立替後のとても良い状態になっている掛軸を見る事が出来、嬉しく思っています。あなたの仕事は一流だ! そして、桐箱もとても良い品質です。あなたの素晴らしい職人技に本当に感謝しています。
こちらの出来る限りの仕事に対して敬意を表してくださり喜んでくださっているのは本当に光栄に思います。
掛軸や美術品のシミは今回のように必ず完璧に落ちるというわけではないのですが、弊社では出来る限りの事をさせていただいております。
もし汚れやシミでお困りの方がいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。