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香美町のお客様より掛軸修理のご依頼 – 天照皇大神の掛軸をよみがえらせる
目次
1. はじめに
弊社は兵庫県の奥地までお仕事でお伺いする事が多々あります。
兵庫県の但馬地方にある香美町にお住まいのお客様より掛軸の修理をご依頼いただきました。
今回のお客様はこれまでにも何度か掛軸修理のご依頼をいただいたリピーター様です。
信頼して再びお任せいただけることは私たちにとっても大変光栄なことです。
2. 修理のご依頼 – 天照皇大神の掛軸
ご自宅にお伺いし、拝見させていただいたのは「天照皇大神」と書かれた掛軸でした。
日本の田舎のご家庭ではこの掛軸が飾られているのをよく見かけます。
特に江戸時代から広まった「伊勢講」の影響もあり、多くの方が伊勢神宮を参拝した際のお土産として、こうした掛軸を持ち帰られたと考えられます。
伊勢講とは江戸時代に庶民が伊勢神宮への参拝を目的として組織した信仰団体のことです。
遠方の人々が伊勢参りを実現するために、講という共同体を作り、代表者が代わりに参拝するなどの仕組みが整えられていました。
そして伊勢参りの記念品として「天照皇大神」の掛軸が持ち帰られることが多く、全国の家庭に広まったのだと考えられています。
3. 修理前の状態 – 折れジワと汚れの深刻なダメージ
お客様の掛軸は長年の保管や使用により、無数の折れジワが発生していました。特に折れが激しい部分は本紙が裂けてしまう寸前の非常に危険な状態でした。
また、汚れも全体的にひどく、修復には慎重な作業が求められる状況でした。
このままでは紙の繊維がさらに弱まり、修復不能になってしまう可能性もありました。そのため、一刻も早く適切な処置を施すことが必要でした。
4. 掛軸修理の工程
今回の再表具の主な工程は以下の通りです。
作品解体 – 既存の裂地や軸棒を丁寧に取り外します。
旧裏打紙の除去 – いわゆる「めくる」という作業で、古い裏打紙を慎重に剥がします。
作品洗浄 – 表面の汚れを落とし、本紙の状態を整えます。
シミ抜き – 通常の洗浄では落ちないシミを専門の技術で丁寧に除去します。
折れ伏せ – 激しい折れの箇所を裏から細い和紙で補強し、耐久性を向上させます。
再表具 – 適切な裂地を選び、新たに仕立て直します。
掛軸の仕立替作業について詳しく知りたい方はこちらの動画をどうぞ。
5. 修理の難所と工夫
折れの激しい箇所では、旧裏打紙を除去する際に少しの力加減を誤るだけで本紙がさらに損傷してしまう恐れがありました。そのため、細心の注意を払いながら少しずつ作業を進めました。
また、折れ伏せを施さなければならない箇所が多く、一つひとつの工程に想像以上の時間を要しました。
しかし、長年受け継がれてきた掛軸を次の世代へ残すために、一切の妥協をせず、丁寧に仕上げていきました。
6. 修理完了 – お客様の喜びの声
慎重な作業を重ね、掛軸は見違えるほど綺麗な状態へとよみがえりました。
お客様のご自宅へ納品に伺うと、「本当に綺麗になりましたね!」と喜んでいただきました。苦労して修復した甲斐がありました。
修理を施した掛軸がこれからもご自宅で大切に飾られることを願っています。
日本の伝統文化としての掛軸を守り続けることが私たちの使命でもあります。
7. おわりに
今回の掛軸のように長年飾られてきた大切な作品は、適切な修理を施すことで再び美しい姿を取り戻すことができます。
もしご自宅の掛軸が傷んでしまっている場合は、ぜひ一度ご相談ください。大切な作品を未来へ受け継ぐお手伝いをさせていただきます。