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香港のお客様から掛軸修復依頼: シミ抜きやひどい折れジワも回復
日本の美術品である掛軸は時を超えて人々の心を繋ぐかけがえのない存在です。
長年の間に傷みや汚れが生じてしまった大切な掛軸をどのようにすれば良いか?
弊社は創業以来、数多くの掛軸と向き合い、その修復を通して、お客様の掛軸に対する深い想いを未来へと繋ぐお手伝いをさせていただいております。

弊社に掛軸修理をご依頼されたお客様
熟練の職人による丁寧な手仕事と長年培ってきた知識と技術で、お客様のかけがえのない想いが込められた掛軸を再び美しい姿へとよみがえらせます。
今回は香港にお住まいのお客様との心温まる掛け軸修復のエピソードをご紹介させていただきます。
ご相談からご来店まで
お客様からはメールで掛軸のご相談を頂戴し、掛軸の現状や修理に際しての注意事項、予算感などをざっくりと初めにご回答させていただきました。
ご回答にご納得いただけたようでなんとお客様は日本への休暇中に神戸へお立ち寄りくださり、弊社にご来店してくださることになりました。
これまでも弊社に訪れてくださった海外の方は数多くいらっしゃいましたが、掛軸の修理のご依頼でご来店されるのは初めての経験でしたのでどのような打ち合わせになるのかとても楽しみにしていました。
当日となり、お客様はご家族でお越しくださいました。
お客様がお持ちになられたのは二点の掛軸で、一つは竹と雀が描かれたもの、そしてもう一つは書が描かれたものでした。
奥様にとって第二の母親と慕っていた日本のピアノの先生からの大切な贈り物とのことでした。
その先生は既に亡くなられている事からとても奥様にとっては思い入れのある掛軸でしたので弊社に来店し、直接打ち合わせをしながら仕立を決定していきたかったようです。
弊社には大量の裂地のストックがあるので、その中からお客様のご要望に合う物をピックアップし提案いたします。
弊社は仕立替を行う裂地の候補を実際に掛軸の横に丁寧に並べ、お客様が仕立替後の掛軸の状態をイメージしやすいように配慮いたしました。お客様は最適な裂地の組み合わせをじっくりと選んでおられました。
その真剣な眼差しや時間をかけて悩まれるご様子から、この掛軸がお客様にとって本当にかけがえのない大切な物であり、しっかりと修復して再び飾りたいという強い愛情を感じました。
私もお客様の想いをしっかりと受け止め、最良の修復となるよう裂地選びから丁寧なヒアリングまで、精一杯サポートさせていただきました。
こちらが今回ご依頼いただいた掛軸です。長年の間に発生したと思われる酷いシミ汚れが全体に広がり鑑賞の妨げになっているような状態でした。
特にこちらの書の掛軸は全体的なひどい汚れに加え大量の折れも発生してしまっている危険な状態でした。
修復内容と工程の詳細
今回の修理では、以下の流れで作業を進めました。
1. 作品解体
まずは、現在の掛軸から古い裂地や軸棒を取り外す作業を行いました。作品自体に負担をかけないよう、慎重に解体していきます。2. 旧裏打紙の除去(めくり作業)
掛軸の裏側にある古い裏打ち紙を取り除く「めくり」の作業を実施。3. 作品洗浄&シミ抜き
作品の汚れを落とすための洗浄とシミ抜きを行いました。4. 肌裏打ち・折れ伏せ
肌裏打ちを施し、折れによるダメージを補修するため、折れ伏せを行い補強しました。5. 再表具
最後に、お客様が選定された裂地を使用し、新しい掛軸として仕立て直しました。
特に今回の修復で重要となったのがシミ抜きの工程でした。長年蓄積された頑固なシミに対し薬剤の濃度や塗布時間、回数、温度など様々な微調整を行いながら丁寧にシミ抜きを行いました。
修復を終えた掛軸とお客様の反応
修理を終えた掛軸は汚れも除去され見違えるような見事な仕上がりとなりました。
お客様からは「掛軸が新品のように見えます。修復は大成功だったようですね。掛軸を見るたびに先生のことを思い出すでしょう。掛軸を再び鑑賞できるようにしてくださりありがとうございます。」と修復の出来栄えに非常に満足している様子を伝えてくださいました。
お客様の喜びが弊社の何よりの励みです。
まとめ──掛軸に宿る想いを未来へ
大切な掛軸に込められた歴史や想いを未来へと繋ぐお手伝いをさせていただくこと。それが、私たち株式会社 野村美術の使命です。
この作品を見るたびに、恩師の声が心に蘇る──そう語ってくださったお客様の言葉が、今も心に残っています。
もし、長年のシミ汚れや傷みでお困りの掛軸がございましたら、ぜひ一度弊社にご相談ください。専門の職人がお客様の想いを大切に、心を込めて修復させていただきます。