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アメリカの古美術商から古い掛軸の修復依頼

弊社では海外のお客様からも掛軸の修復や表装のご相談をいただいております。
個人で掛軸を収集されている方はもちろん、ギャラリーや古美術商といった事業者様からのお問い合わせも増えてまいりました。
今回はアメリカの古美術商様からのご依頼で上棟式を描いた古い掛軸の修復を承りました。


上棟式とは

上棟式とは日本の伝統建築において、家屋の骨組みが完成した際に行われる儀式です。
無事の完成を願う祈りを込めて職人や施主が集い、棟木(むなぎ)を屋根に上げる重要な節目の行事です。
この儀式の様子を描いた掛軸は時代背景や地域の風俗を知る上でも貴重な資料となります。
丁寧な打ち合わせを重ねて
初めてのお取引ではありましたがメールでのやり取りを重ね、作品の状態や仕立て直しの方針、裂地の選定など、一つ一つ丁寧に確認しながら進めてまいりました。
裂地については、現状の色味や構成を気に入っておられましたが、変更にも柔軟に対応可能とのことで
「野村様の感性と力量にお任せします」
とのお言葉も頂戴しました。
こうしたご信頼に応えるべく作品の雰囲気と調和する裂地を選び、作品全体が落ち着いた印象にまとまるように心がけました。
以下の記事が弊社がご提案させていただいた裂地の組み合わせです。

修復作業について
お預かりした掛軸は経年による折れジワが酷く、絵具の剥落も懸念される状態でした。特に白い絵具部分は修復作業中に剥がれ落ちてしまうリスクが高く、慎重な処置が求められましたので細心の注意とケアを行いながら作品の仕立替作業を進めていきました。

修復完了
長かった修復作業を終え、新たな命が吹き込まれた掛軸がこちらです。以前の表装の雰囲気も残しつつ全体をシックな雰囲気にまとめました。

きつい折れジワも見事に修復され、剥落が心配された胡粉もなんとかキープする事が出来ました。また、裂地の幅についても作品サイズとのバランスを考慮して調整を加え、視覚的な安定感を高めるよう意識しました。
ご依頼いただいた古美術商のご担当の方からも
「仕上がりは良好で、オーナーはとても喜んでおります」
というお言葉を頂戴しました。予定よりも早くお届けできたこともありご満足いただけたご様子でした。
最後に
海外には、日本の古美術を専門に扱うギャラリーが存在します。彼らが日本の美術品に関心を持ち、積極的に取り扱ってくださっていることは、私たち日本の表具師にとって非常に嬉しいことです。
文化というものは、需要がなければ次第に衰退してしまいます。現代の日本では、和室や床の間の減少に伴い、掛軸の需要も大幅に減少しており、危機的な状況にあります。
そんな中で、日本の美術品に価値を見出し、修復や表装のご依頼をくださる海外のギャラリーの存在は、私たちにとって大変ありがたいものです。弊社の技術を必要としてくださる方々がいらっしゃるおかげで、私たちはこの仕事を続けることができています。
日本の美術品を扱っているギャラリー様で、修理や表装のご相談をお考えの方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。私たちは、作品の魅力を最大限に引き出すお手伝いをさせていただきます。