最悪レベルのシミとカビ…西国三十三所の掛軸修復

雨に濡れた西国三十三ヶ所納経軸

納経軸に朱印を集めて巡り、満願後に掛軸に仕立てる集印軸は昔から多くの人に人気でした。

今回はそんな集印軸の一種、西国三十三ヶ所の納経軸に関する弊社に寄せられた以下のご相談に関するお話です。

こんにちは。
西国三十三所の集印のまくりについてご相談させてください。
実家の親が満願したのですが満願当日に無くしてしまい、二ヶ月後の先日、私が実家に行った所、裏庭に落ちていました。
雨に濡れて、カバーの色が染みているのか、仮巻きの木の色なのか、カビなのか、とても汚れていて、母がしょんぼりしているので、持ち帰ってきました。
持ち帰っても良い考えも浮かばず、YouTubeで動画を拝見して、メールさせていただきました。現在は、広げて乾かしている状態です。

ご相談を頂戴した納経軸のお写真がこちら。

作品の状態の所感からご依頼まで

確かにご相談のメールにあった通り、相当なシミなのかカビなのか、はたまた朱肉汚れのように見れる物まで発生してしまっているひどい状態です。いままでこういった作品のシミや汚れなどのご相談は結構受けてきましたが長期間、屋外で雨ざらしになってしまった状態のご相談は初めてでした。

お客様には歯切れの悪いご回答になってしまいましたが、出来る限り正直に誠意をもって以下のようにご回答させていただきました。

シミ抜きをすれば多少は回復するかもしれませんが、完全に綺麗にはならないとは思います。
シミ抜きの費用も加算すると表装費用はお安くとも●~●万程は必要になってくると思います。
どの程度、綺麗になるかはやってみないと何ともわからないお答えになってしまいますがご参考になれば幸いです。

お客様は弊社の返信に感謝してくださり、「少しでも綺麗になるのであれば」という藁にも縋る想いでお仕事をご依頼してくださる事になりました。

しばらく後に弊社に納経軸が到着いたしました。

やはり想像していた通り、複合的なかなりのひどい汚れが発生してしまっています。

シミ抜きは汚れが落ちるまで強力にひたすら行えば良いという物ではなく、作品を傷めないで行わなければなりません。今回の場合であれば、各札所の朱印であったり中央の観音がそれにあたります。さらに絹本の場合、きつすぎるシミ抜きは台紙自体を変色させてしまう恐れもあるので微妙な按排コントロールが求められる難易度の高い仕事なのです。完全に綺麗にはならないと最初にお伝えしたのにはこういった理由があります。

お客様に再度、状況をご説明させていただき、表装裂地の仕立についてお打ち合わせを行いいよいよシミ抜き作業です。

リアルなシミ抜き作業の声

シミ抜き作業を行う前に、朱印部分の色落ちが起こらないように色止め作業を行いました。

長期間、屋外で雨に打たれてしまっているので正直に言うともうすでに朱肉や墨の滲みが発生するならしてしまっている状態であろうとは思いましたが、それでも念には念を入れて。現状よりも悪化する可能性も否定できないのでしっかりと色止め作業を行いました。

数日間にわたる複数回の色止めを行った後、いよいよ、シミ抜き作業スタートです。

予想通り…普通の強度のシミ抜きではビクともしませんでした。

「ちょっとくらいマシになったとも言えるかな~」程度の変化でしたが、これでは恐らくお客様は喜んでくれないだろうな~というのは何となく想像が出来ました。

さて、ここからが慎重に作業を進めなくてはいけないジレンマとの闘いのステージです。

シミ抜き剤の濃度、時間、温度、シミの状態、作品の状態などを全て細かに全集中でチェックしながら少しずつ変化を加えていきます。限界点を見極めながら最善の結果に落ち着けるよう緊張感をもって作業を行います。医師の執刀のような気持ちに近いのかもしれません。濃密な静寂の時間だけがただ過ぎていく…そんなイメージです。

シミ抜き完了後の状態

最初に言った通り、100%のシミ抜きは無理だというのは予想していました。問題はどの程度まで綺麗にすればお客様の喜んでもらえるレベルになるかという見極めだったと思います。

今回はこちらがその限界レベルだと判断したシミ抜き完了後の裏打まで行った状態の写真です。

当初発生していた黒ずんだカビ汚れのような物は随分と除去が出来ました。まくりの四辺は表装する際にある程度カットするので四辺に残っている濃く黒い汚れはその際に除去出来ます。

あとは表装裂地を取り付ければそちらに視線が誘導されるので作品の汚れに目が行く事を防げると判断しました。

表装作業完了

シミ抜きが完了し、表装作業を行って完成した掛軸がこちらです。

汚れも随分と緩和され、見えなかった部分も復活しました。また、表装裂地の方に視線が誘導されるような取り合わせにいたしました。

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お客様からの声

早速お客様に作業完了のご報告をさせていただき、仕上がった掛軸を送らせていただきました。

後日お客様から以下のような感謝を頂戴する事が出来ました。

ご連絡遅くなり、申し訳ありません。
やっと、実家に行って来ました。
ふんわりとお伝えした希望にも関わらず、我が家好みの雰囲気のお軸に仕上げてくださり、母共々感動しました。
色々な汚れがありましたのに、ほんとうにきれいにしていただいて、多少の残りも歴年か影のようで、
床の間に電気のない実家にかけたところ、風格さえ漂うお軸でした。
また、少し気にしていた、御門跡が2箇所で、満願はご縁のあったお寺にしていただいたので、菊の印が2箇所でバランスがどうだろうと思っていたのが、おそらく、薄くなった事で全く気にならなくなり、母に至っては、気もつかなかったようです。
早速、お軸をかけて、しばらく楽しむようです。
息子がカッコイイお軸と表現していたのも母には嬉しかったようで、何度も、お願いして良かった良かったと言っていました。
素敵にしていただいたのも、母が喜んでいるのも、とても嬉しかったです。
御礼方々、ご報告申し上げます。
ありがとうございました。

大変心のこもった感謝を頂戴出来、携わったスタッフ一同、感無量でございました。ご家族の思いが籠った大切な作品がこうして飾って喜んでいただけていると考えるとシミ抜きの苦労もどこかへ吹き飛んでしまうようです。本当に喜んでいただけて良かったと感じております。

掛軸や表装のご相談がございましたらお気軽にご相談ください。

 

CEO Message

あなたと掛軸との懸け橋になりたい


掛軸は主人が来客に対して季節や行事などに応じて最も相応しいものを飾り、おもてなしをする為の道具です。ゲストは飾られている掛軸を見て主人のおもてなしの気持ちを察して心を動かす。決して直接的な言葉や趣向ではなく、日本人らしく静かにさりげなく相手に対しておもてなしのメッセージをおくり、心をかよわせる日本の伝統文化です。

その場に最もふさわしい芸術品を飾り、凛とした空間をつくりあげる事に美を見出す・・・この独特な文化は世界でも日本だけです。

日本人が誇るべき美意識が詰まった掛軸の文化をこれからも後世に伝えていきたいと我々は考えています。



代表取締役社長
野村 辰二

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会社概要

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商号
株式会社野村美術
代表取締役
野村辰二
本社
〒655-0021
兵庫県神戸市垂水区馬場通7-23
TEL
078-709-6688
FAX
078-705-0172
創業
1973年
設立
1992年
資本金
1,000万円

事業内容

  • 掛軸製造全国卸販売
  • 日本画・洋画・各種額縁の全国販売
  • 掛軸表装・額装の全国対応
  • 芸術家の育成と、それに伴うマネージメント
  • 宣伝広告業務
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