ニュース/ブログ
台湾から大気汚染による強いシミ汚れの掛軸の修理依頼

台湾は日本と同様に湿度が高く、地域によっては大気汚染の影響も受けやすい環境です。
掛軸の素材は紙や絹など繊細なものが多いため、汚れが付着しやすく、時間が経つことで定着してしまい、シミや変色を起こす場合があります。
今回はまさにそういったお悩みのご相談を台湾にお住まいのお客様より頂戴いたしました。
目次
湿度と大気汚染がもたらした汚れやシミ、変色
こちらが今回ご相談いただいた掛軸です。全体的にくすんだ汚れが付着しているのがわかります。
ただ、この汚れの原因が何なのか?そして弊社の洗浄で落ちるのかどうかに関しては写真での確認だけでは限界がある為、修理の概算のお見積もりをお客様にお伝えさせていただき、プロジェクトを進めるのであれば掛軸を送ってくださいとご依頼いたしました。
お客様は概算見積もりに納得され、早速掛軸を弊社に送ってくださいました。
作品到着、予想よりも鮮やかな彩色
作品が到着した段階で、まずは無事に届いたことをご報告し、全体の状態を拝見しました。

当初、お客様が送っていただいた写真で確認した汚れよりも実際に掛軸を拝見すると予想以上にひどい汚れが発生しているのがわかりました。

さらに困った事が作品に使われている絵具が発色の強い物が非常に多いという点でした。特に桜や女性の着物の絵具がかなり厚塗りで何度も塗り重ねられて描かれている事がわかりました。

汚れが強いとどうしても「徹底的に落とす」という方向へ意識が向きがちになります。
しかし彩色が鮮やかな作品ほど、シミ抜きを強くし過ぎると色落ちや絵具の剥落などにつながる可能性が高くなります。作品を損ねてしまっては本末転倒になるのでプロの表具師でも非常に判断が大変難しいジレンマな部分です。
そこで弊社では作業に入る前の段階から「どこまでを狙い、どこから先は危険か」という線引きをお客様と共有しました。
シミ抜きである程度汚れは洗浄されるとは思うが完全な除去は難しい可能性がある、しかし作品保護を最優先にする事が大切なので安全域の中で最大限の改善を目指す方針で進めるという方向をお客様にご理解いただきました。
表装仕様打ち合わせ
仕立替では、裂地選びが仕上がりを大きく左右します。
今回のお客様は「シンプルで控えめな印象」「深い緑系が好み」といった方向性が明確でしたので、弊社側でもその方向に合わせて裂地を探し、複数の候補をモックアップで比較できる形でご提案しました。

海外案件では実物を並べて見比べることができない分、完成のイメージを共有することがとても重要になります。モックアップは、その不安を一つずつ減らしていくための大切な工程です。
最終的には落ち着いた色の裂地をお選びいただき、全体の印象がすっきりと締まる構成にまとまりました。

修復内容と工程の詳細
今回の修理では、以下の流れで作業を進めました。
1. 色止め
絵具が滲まないように定着させる作業です。今回は特に発色が強い彩色が行われている箇所が多かった為、念入りに何度も何度も色止め作業を行いました。2. 作品解体
現在の掛軸から古い裂地や軸棒を慎重に取り外します。作品に負担がかからないよう細心の注意を払って作業を行います。3. 旧裏打紙の除去(めくり作業)
作品の裏側に接着された古い裏打紙を丁寧に取り除きます。4. 洗浄・シミ抜き作業
作品の状態を常に確認しながら洗浄・シミ抜きを行っていきます。今回は特に色落ちの心配があった為、低濃度から少しずつ濃度をあげては時間をかけて様子を確認する作業を何度も何度も繰り返し行った為、膨大な時間を要しました。5. 再表具
無事に洗浄・シミ抜き作業が終わった為、お客様にお選びいただいた裂地や仕様で、新たな掛軸として仕立て直しました。
修復作業完了
掛軸の修理仕立替が完了いたしました。こちらが新たに表装し直した掛軸です。

汚れも除去され、作品本来の鮮やかさがより際立って感じ取れるようになりました。
お客様からのレビュー
お客様の元に早速お送りさせていただくと見違えるように回復した掛軸に大変喜んでくださり以下のようなレビューを頂戴する事が出来ました。
台湾(高雄)のひどい大気汚染のせいで、私の掛軸はとてもひどくシミ汚れてしまっていました。
しかし今では新品のように見え、シミも完全に消えました。
野村美術(Art Nomura)を心から強くおすすめします。My scroll was very badly stained by the terrible pollution here in Kaohsiung Taiwan. The scroll now looks like new and the stains are completely gone. I can’t recommend Art Nomura highly enough.
強く弊社をお勧めしてくれているのが大変励みになりました。遠方からのご依頼にもかかわらず最後までお任せいただき、本当にありがとうございました。
湿度が高い地域での保管について(ビニールは必要?)
納品後、「台湾は湿度が高いが、桐箱をビニールで包むべきか?」というご質問もいただきました。
この点は誤解されやすいのですが、桐箱には調湿性があるため、基本的にビニールで密封する必要はありません。むしろ密封してしまうと、湿気を閉じ込める可能性があります。
より強固に守りたい場合は、桐箱を漆塗りの外箱に収める「二重箱」という方法もあります。詳しくは以下の記事をご参照ください。
また日常の管理としては、年に数回、晴れた乾いた日に掛けて風を通し、その後同じく乾いた日に巻いて桐箱へ戻す、というサイクルが掛軸のメンテナンスにもつながります。掛けっぱなし・しまいっぱなしを避け、保管場所の湿気を抑えることが大切です。
総括
掛軸の汚れやシミは、原因や定着度、そして作品の彩色の状態によって最適な対応が変わります。
弊社では、まず状態を確認し、リスクや限界も含めてご説明した上で、作品の魅力を損なわない最適解を確認しながら作業を進めてまいります。
海外からのご依頼も含め、掛軸の汚れ・シミ・仕立替でお困りの際は、是非弊社にご相談ください。




