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水害 で泥まみれになった掛軸の洗い・洗浄修理
日本は災害の多い国というのは周知の事実ですが、最近のゲリラ豪雨による 水害 は少し異常ですね。たった1時間のとてつもない降水量により、河川が氾濫し大きな被害をもたらす事もしばしば。テレビで見られる映像は信じられない光景ばかりです。もともと台風が多い国である上にゲリラ豪雨まで加わると本当にいつどこで 水害 が起きてもおかしくないと考えるとゾッとしますね。
そんな最近の気象状況も関係してですが、 水害 にあわれた方から表装の相談を受ける事が増えてきました。大切な美術品や思い出の作品などが 水害 の被害により損傷してしまったのでどうにか再び飾れるように出来ないかというものです。今回ご紹介する内容もまさにそういったご相談でした。
思い出の掛軸が 水害 で泥まみれに・・・
水害に遭われた方からご相談いただいたのは思い出の掛軸が泥まみれになってしまったというものでした。巻かれていた掛軸を最初開けるのも泥により掛軸同士が引っ付いてしまっていたので、ゆっくりと慎重に開けなければなりませんでした。
泥の付着状況から考えるに、床の間に飾っていた状態で水が凄い勢いで浸水してきたのだと想像できます。もし掛軸を巻いた状態で水が浸水してきた場合はこういった泥しぶきのような付着はせず、外側に泥が付着し、内側は均一に汚れが付着すると考えられるからです。
上述の仮説を証明するかのように軸棒の部分に一番泥が付着しており、軸棒が完全に外れてしまっています。もしかしたら泥に掛軸の下部が埋まってしまい、水が引いた後に掛軸を泥から取り出そうとしてこうなったのかもしれません。いずれにしても凄惨な状況を掛軸から想像する事が出来ます。
今回ご相談いただいたのは2本の掛軸。こちらもおそらく上の掛軸と同じく、床の間に飾っていた状態で被害に遭われたのだと思います。
こちらも掛軸の下部の軸棒部分が完全に無くなっています。
表装仕立替
このような状態になると修復を諦められる方もいらっしゃると思いますが、それでも弊社にご相談していただいたという事はよっぽど思い入れが強いものだと思い、できる限りの修復をさせていただく事にいたしました。
一番苦労したのが泥の除去です。手作業で除去できる部分はなるべく手で除去し、水で洗浄する場合は全体ではなくなるべく泥の部分のみに水を使用するようにいたしました。水を全体に勢いよくかければ良さそうに思うかもしれませんが大量に水をかけすぎると墨や印の滲みにつながる恐れがあるのと、水害にあった作品は少なからずダメージを受けているのでなるべくソフトに扱い、作品に負担をかけないようにしなければならないためです。
手作業と水による部分的な洗浄により、根気強く泥をできる限り落とした後、旧裏打紙の除去(めくり)です。この作業も作品のダメージを見ながらなので非常に神経を使う大変な作業でした。通常の経年劣化のダメージとは違うので慎重にめくらなければなりません。
旧裏打紙の除去が終わった後、初めて洗浄液で全体をクリーニングいたしました。裏打紙が残った状態では綺麗に汚れが落ちにくいので裏打紙を必ずめくらなければなりません。
今回の仕立替で発生した泥や汚れの量は本当に凄まじいもので、水害の深刻さを作業しながらも感じました。
仕立替の完了
全ての作業が完了し、表装の仕立替が終了いたしました。根気の要る泥の除去作業と洗浄作業の甲斐もあって美術品として復活させることが出来ました。これでまた末永く床の間に飾っていただき楽しんでいただく事が出来ます。
思い出の掛軸に新に命を吹き込み、未来へ残す。
そんな仕事を我々は行っています。
「たいせつなもの 未来へ・・・」
水害 などに遭われて諦められる前に一度弊社にご相談して下さい。
掛軸の修理修復工程をより詳しくご覧になられたい方は以下の動画で徹底解説しています。全4回に渡る長編の解説付の動画ですのでご興味ある方は是非ご覧ください。
掛軸のシミ抜きについてより詳しくご覧になられたい方はこちらの動画にてその工程をご説明させていただいておりますのでよろしかったらご覧ください。