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太巻 : 掛軸を優しく保管する便利なツール
太巻
今回は掛軸を保管する際に発生しやすい掛軸の折れやシワを防ぐ為のスペシャルツール「 太巻 」をご紹介させていただきます。
掛軸というのは飾る時は広げ保管する際は巻きます。この広げたり巻いたりというのを繰り返す事によって掛軸特有の傷みである折れやシワという物が発生してしまいます。
これは作品を鑑賞する上でももちろん邪魔になりますし、なにより作品の寿命を考えると防ぎたいものです。ここから破れたり裂けたりといった損傷が発生してしまうので。
それを防ぐ便利なツールというのがこちら「太巻」と呼ばれるものです。ご存じでしょうか?
最近ではその存在を知ってらっしゃる方も増えてきているかなとは感じますが、掛軸を持っている方の数から考えるとまだまだ知らない方が多いですね。
というのも恐らく昭和の後期位、、、高度経済成長時代くらいから作られるようになったものだと考えられるのでまだまだ認知されていないのも仕方がない事だと思います。
この太巻は何をする為のツールかというと「掛軸を保管する際に掛軸を巻く直径を大きくする為」のものです。
普通の巻き方で巻いたもの (「並巻」と呼びます。) と比べてみると直径が大きくなっているのがわかりますね。
直径を大きくして掛軸を巻くと何が良いかといういうと、物は巻くとそこに張力、テンションが発生し、これが作品に加わる負荷になります。きつく巻けば巻くほどそのテンションは高まり負荷が大きくなってしまいます。この負荷が大きくなると折れやシワの原因となります。掛軸を巻く際にきつく巻き過ぎないようにとよく言われる所以はここからきています。
画用紙を想像していただくとよくわかると思います。硬い画用紙を小さい直径で巻くとバキバキっと折れが発生してしまいます。逆にゆるく巻いてあげると折れは発生しません。なので画用紙を持ち運ぶ際は大きくゆるく巻いて輪ゴムか何かで止めて持ち運ぶことが多いと思います。
これと同じ原理でこの作品に加わるテンション、負荷を出来る限り軽減させてあげる為にゆるく巻く、直径を大きくして巻き上げるツールが太巻になります。
傷みが激しい作品や絵具を厚く塗り重ねている作品を保管する場合に使われる事が多いですが最近では高価な物を大切に保管したいというニーズを叶える為にも使用されたりします。
太巻の使用方法 / 飾る時
では今からこの太巻を外して掛軸を飾る所から、この太巻を使って片付ける所までをご紹介したいと思います。
今、掛軸の紐を床の間のフック…今回は高さを調整する自在掛けという道具のフックに掛けた状態です。ここから掛軸を広げていきます。
で掛軸を広げ終わったらこの太巻の芯は前後に開くので、開いて取り外します。
たまにお客様でこの太巻の芯をそのままつけた状態で飾ってる方がいらっしゃいますがこれは間違いです。
太巻の芯は前後に開きますので、鑑賞する時は普通の掛軸の状態と同じように太巻の芯を外した状態で鑑賞します。
太巻の使用方法 / 仕舞う時
仕舞う場合ですが、この太巻の芯は先ほども説明した通り前後にパカっと開きます。
芯には掛軸の軸棒と同じくらいの大きさの穴が切ってありますので、芯を開くと半月状のくぼみが前後に出来る形になります。
このくぼみになっている部分に掛軸の下の部分にある軸棒を添わしてはめ込みます。(実際ははめ込むというよりも置くといった感覚になります。)
たまに軸先の形が変わった形をしていたり大きかったりすると通常の太巻の芯がきちんと閉じないのでそういった場合は別注で太巻の芯の穴を大きくする必要があります。
その後、芯を閉じてセット完了です。
後は通常通り巻いていきます。
ただこの太巻の芯には注意点があります。それは「前後の向きがある」という事です。
実はこの芯は横から見ると高さが低い方と高い方とがあります。指で触って確認していただいたら高さの違いが分かります。
この低い方を前にして使用します。これは何故かというと高い方を前にすると芯を閉じた際に芯の閉じ口の部分が掛軸の下の裂地の部分(「地」と呼びます。)に当たって跡形がついてしまう事があるからです。そんなに簡単には跡形がつくことはないですが、何回かそういった事象を見た事があるのでこれを防ぐ為に低い方を前にします。
太巻の芯には出っ張りと穴が存在しており、よくこの出っ張りと穴の向きによって前後の説明をされる方もいらっしゃいます。
出っ張りがある方が奥だと言われる場合が多いのですが、この出っ張りと穴の向きは桐箱の製作会社によって異なりますので太巻の芯の前後の向きとは必ずしも一致していない事があるのでそれよりも芯の高さで前後の向きを確認された方が良いです。
この太巻の芯も製作する桐箱屋さんによってさまざまな仕様があり、前の向きの方に少し隙間を細工して掛軸の地の裂地に直接当たるのを防ぐようになっている物もあります。
他には両側に隙間を生じるように設計している太巻の芯というのも見たことがあります。ここら辺は本当に桐箱屋さんによって仕様が異なりますのでその都度確認されるのが良いと思いますが、高さの違いで前後の向きを判断された方が一番向きを間違えない確実な方法だと思います。
この向きに注意して芯を掛軸の軸棒にセットすればあとは通常通り巻くのと同じです。
巻き終わった状態です。
あとはこの太巻の芯に巻かれた掛軸を桐箱に入れて収納します。この桐箱も太巻の芯に巻かれた掛軸は直径が大きくなるので通常の掛軸用の桐箱(「並箱」と呼びます。)と比べると高さや深さも大きくなります。
これで完了です。このように太巻を使う事で掛軸への負荷を軽減出来、末永く掛軸を楽しんでいただく事が出来るようになります。
オーダー大歓迎
この太巻という物は掛軸や巻物を保管する上で非常に便利な道具で最近では海外の美術館や博物館からもオーダーを頂戴する事が増えてきました。
掛軸の寸法や写真などで現状をお伝えいただく事でそれにあわせて太巻を製作する事も出来ますので美術品の保管で太巻の事を考えられている方がいらっしゃいましたら是非お問い合わせください。