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美術レポ: 千總の屏風祭り2023「見えない水を見る」
京都の夏といえば『祇園祭』。大きく豪華な山車が道を練り歩く事で全国的に有名なお祭りですよね。
その祇園祭にあわせる形で近隣の屋敷は所持品の屏風を見せ合いっこする『屏風祭り』というイベントが行われます。
京都以外の方にはあまり知られていない風習ですが京都の中では結構共通認識で行われる行事らしく中には有料の所もあったりするほど。
やっぱり昔の都だけあって持っている所は持ってるんですね。
そんな屏風祭りを京友禅の老舗である千總が自社の2階のギャラリーで行うのが今回の展覧会。
今回は水に関連する屏風を展示しているというので7/1に京都に行ってきました。
スゲぇ〜ビルでげす…千總さん。
さすが戦国時代の1555年に創業なだけある…ヤルナ…
お店の正面からちょっと緊張しながら入り
『いらっしゃいませ〜』と言われる中、
『あの〜、すいません。屏風見たいんすけど…』
と言うと笑顔で2階のギャラリーに通していただけました(´▽`) ヨカタ
こちらのイベントはなんと無料!
千總さんありがとうございますm(_ _)mしっかりと堪能させていただきました。
展示されているのは3点の屏風のみという非常に大胆な展覧会。見るべき物に集中出来て逆に良かったです。
美術館の展覧会と違い、他の来場者もほぼいない貸し切り状態で作品を見る事が出来たのでお勧めです。
吉村孝敬 「水辺群鶴図」
吉村孝敬は円山応挙の弟子で応門十哲の1人という実力派絵師。
描かれているのは水辺で戯れる鶴の群れ。
六曲一双のパノラマビューを巧みに使った水辺の表現が印象的でした。描き込みは少ないのに広大な水辺の広がりを感じさせるところに意味のある余白力を感じました。
左隻から右隻にかけてザザ〜ンっと波が打ち寄せているのが伝わってきて風景に没入できる逸品でした。
岸竹堂 「梅図」
岸竹堂は幕末から明治にかけて活躍した岸派の絵師。岸派は江戸時代中期に京都で佐伯岸駒がスタートさせた絵の一派で虎絵を得意としました。
この岸竹堂も虎絵に執念を燃やして研究した結果、発狂して『虎が睨んじょる!』と言って入院した事のあるユニークな絵師。
岸竹堂は千總の下絵の仕事を一時期やっていたので本作品もその関係での所蔵だと思います。
この屏風は元々琵琶湖の絵が描かれている屏風の裏に描かれていた作品。リバーシブル屏風だったので今回の『水』シリーズにて展示。
こちらの屏風は珍しい八曲一双の大ワイド画面。
普通屏風のMAXは六曲屏風で八曲は珍しい。
そのワイド画面にこれでもかと言うくらい梅の枝が躍動感たっぷりに描かれているのが凄かった!
右は『うりゃー』ってズドーンって一気に枝が伸びるように描かれてますし左はブッシャーと爆発するかのような動きでダイナミックに描かれていました。
躍動感たっぷりの発狂入院ペインターの面白い作品でした。
円山応挙 保津川図
こちらが今回の展覧会の大トロの部分。
江戸時代中期、18世紀の京都で一世を風靡し『京都画壇のキング』と呼ばれた絵師・円山応挙の絶筆『保津川図屏風』。
こちらも八曲一双の珍しい超絶ワイド画面。
展示の仕方は変わってまして、普通屏風は左右を横一列に展示するスタイルをとります。
こちらの屏風も『左右の屏風の真ん中に立てば保津川の流れを舟に乗って下っているように感じられる』と別の解説で聞いていました。
『なるほどな〜』と思っていたのですが今回の展示では左右の屏風が会場の右と左に別々に分けられて展示されていました。
こうする事で会場の真ん中に立つと右隻の方から保津川の上流を感じ、中流を自分の頭の中で想像して左隻の下流を感じ取る事が出来るという展示方法らしいです。
『へ〜、すごいね。そんな展示方法あるんや。ってか右隻・左隻がそれぞれ上流・下流を表してるんや』
と驚きながらも右隻からじっくりと舐めるように拝見させていただきました。
右隻
まず、なにより驚いたのは想像していたよりも川の勢いの凄さを感じた事。
これは屏風ならではの効果。
屏風は掛軸や巻物、欄間額、衝立、襖など他の美術品と圧倒的に異なる屏風ならではの特徴があります。
それが画面をジグザグに折って飾るという点。
山の部分と谷の部分が生まれる事により画面に不思議な効果をもたらします。
この屏風ならではの見せ方を「空間芸術の鬼」と言われた円山応挙が理解していないはずがない。
この屏風のジグザグに合わせるように川の流れを描く事で勢いを倍加させています。
この川のドライブ感はPCの画面や図録などの通常掲載されているフラットの写真では感じる事が出来ない、まさに現物、ライブならではの味わいで大満足でした。
特に4~5扇目の川の躍動感が半端なかったです。
研ぎ澄まされた切れ味鋭い日本刀のようなシャープな線で表現された川の流れにゾクっとするような応挙の凄みを感じました。(南斗水鳥拳みたい…)
画面全体がぎっしり描いているわけではなく抜きを多用する事で強弱をつけているので疲れず非常に見やすく、ハイライトがどこであるかが明確なのも素晴らしかったです。
この屏風で言うと3~6扇目がハイライトで岩場や木の描写などもここに密が来るように集中されていて他は金砂子を多用しながら抜きの多い画面になっているので見るべきもの(応挙が見せたいもの)に集中する事が出来ました。
左隻
続いて左隻を拝見。
左隻は右隻と違って穏やかな川の流れ。斜めにスライドしているイメージですね。
それでも屏風のジグザグを考慮にすると5~7扇目が手前側に迫りくるように描かれています。
言われなければ気が付かなかったのですが、よく見ると小さな鮎が描かれているのに驚きました。
7~8扇目には河原が薄墨でラフにぼんやりと描く事で遠近感を表現しているのがさすが。
こういった抜きどころが一流のプロっぽさというか巧みさを感じ入りました。
総括
今回は保津川図屏風は並べて飾る展示と離して飾る展示で屏風自体のストーリーの見方が変わるという新しい楽しみ方や円山応挙が行った屏風の構造を活かした絵の描き方を体験でき大変有意義な展覧会でした。
円山応挙の絶筆と言われる保津川図屏風は千總ギャラリーで9/25まで見る事が出来ますので是非足をお運びください。