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「村上隆 もののけ京都」展レポート
目次
序章
村上隆(敬称略)は現代日本を代表するワールドクラスのアーティスト。
村上隆の作品はアニメや漫画などのサブカルチャーをモチーフにしたものも多いのですが実はベースは日本画にあり、村上隆は東京芸術大学での教育を経て、大学院でも学び、博士号を取得しています。
今回のレポートは、約8年ぶりとなる国内個展「村上隆 もののけ京都」展についての報告です。
この展覧会は京都市京セラ美術館で開催され、東京以外で初めて行われる村上隆の個展となりました。
展覧会の概要
「村上隆 もののけ京都展」は、村上隆の多彩な作品群を通じて、彼の芸術的探求と日本の伝統美術との融合を体感できる貴重な機会です。
今回の展覧会は特に興味深いものであり、その理由の一つに、村上が江戸絵画に対して深い愛情を持っていることが挙げられます。
京都という土地の歴史的背景を活かし、江戸時代の絵画をオマージュした作品が数多く展示されています。
会場の雰囲気とエントランス
展覧会の会場となった京都市京セラ美術館は、平安神宮の近くに位置し、周囲の風景も美術館の雰囲気を一層引き立てています。
エントランスからして普段の美術展とは異なる雰囲気が漂い、村上隆ならではの独特な世界観が広がっていました。
エントランスのディスプレイ
エントランスには巨大な彫刻が展示されており、その豪華さに圧倒されます。桜の花を背景に、巨大なフィギュアとも言えるような立体作品が設置されており、来場者の期待を一気に引き上げます。
今回の展覧会では、絵画だけでなく、多種多様なアート作品が展示されており、現代アートの多様性を感じさせる内容となっています。
主な展示作品と見所
1. 阿吽像
エントランスに展示された阿吽像は、高さ約4メートルの巨大な赤鬼と青鬼の像です。
興福寺にある天燈鬼・龍燈鬼立像(運慶の三男、康弁作)にインスパイアされたものという印象を受けました。
村上隆の阿吽像は、東日本大震災の際に制作され、「自然災害や病魔などの災いから人々を守ってほしい」という願いが込められています。
この作品は、鬼が邪悪なものを踏みつけている構図となっており、その迫力に圧倒されます。
2. 岩佐又兵衛の洛中洛外図屏風(舟木本)のオマージュ
戦国時代から江戸時代初期にかけての絵師、岩佐又兵衛の洛中洛外図屏風(舟木本)のオマージュ作品は、全長13メートルに及ぶ大作です。
原作は、京都の街並みや人々の生活を詳細に描いたもので、遊郭のシーンや橋の近くで酔っ払って担がれている男性など、細部までリアルに再現されています。
岩佐又兵衛の原画については以前動画でまとめてありますのでよろしければこちらをご覧ください。
村上隆はこの作品を忠実に再現しつつ、自身のオリジナルキャラクターを織り交ぜて現代風にアレンジしています。
3. 尾形光琳の花
こちらは江戸時代の琳派の絵師、尾形光琳の作品をオマージュしたもので、「紅白梅図屏風」の川をオマージュして制作されています。
尾形光琳の紅白梅図屏風に関してはこちらの動画をご覧ください。
村上隆は光琳の作品を現代風にアレンジし、自身のキャラクターを用いて新たな解釈を加えています。
この作品は、光琳のデザイン性と村上の現代アートが融合した見応えのある作品です。
4. 風神雷神図
村上隆の「風神雷神図」は、カラフルでポップなゆるキャラ風の風神雷神を描いた作品で展示されていました。
この作品は、俵屋宗達、尾形光琳、鈴木其一、今村紫紅といった歴代の琳派の絵師たちの作品を現代風にアレンジしたものです。
村上は、琳派の定番のお題に対して、自己流のアプローチで現代風に答えています。
5. 四季 FUJIYAMA
「四季 FUJIYAMA」は、村上隆の作品の中でも特に異彩を放つ作品であり、その斬新なアプローチと深い背景が特徴です。この作品は、一見すると数字が乱雑に並んだカオスな絵に見えますが、その背後には村上の独自の美学とストーリーが隠されています。
「四季 FUJIYAMA」は受注生産のオーダーメイド作品であり、村上と顧客との長い対話がこれまでもなされてきました。作品の制作期間は足かけ7年にも及びます。村上は、この作品の納期を2024年秋と決め、その期限に向けて作品を完成させるための努力を重ねました。
しかし、今回の企画展の運営で困難に直面し、そちらの方に自身のリソースが割かれてしまった為、当初の予定より随分と遅れてしまったそうです。
しかし依頼主には完成の日時は伝えてしまった為、どうしようもない状態という割り切れない心を表す為に、割り切れない数字である素数を作品全体に施したというのがこの数字の意味です。
なんとも面白いユニークな作品です。果たしていつ完成するのかも含めて楽しみですね。
6. 雲龍赤龍図
雲龍赤龍図は、日本技術史家の大家・辻惟雄先生に「たまには自分で描いたらどうなの?」と言われて村上が発奮して制作した作品です。
この作品は全長18メートルに及び、曾我蕭白の影響を受けたダイナミックな赤龍図です。
曾我蕭白につきましてはこちらの動画をご参照ください。
村上隆がこの作品で自身の技術と表現力を存分に発揮している所が見所です。
7. 見返り来迎図
「見返り来迎図」は、村上隆の作品の中でも特に歴史的な背景と深い宗教的意味合いを持つ作品です。この作品は、鎌倉時代の阿弥陀如来来迎図をオマージュしており、村上はこの古典的なテーマに現代的なアプローチを加えています。
阿弥陀如来来迎図は、末法思想が広まった時期に多く描かれました。末法思想とは、仏教の教えにおいて、釈迦の教えが次第に衰え、人々が救われなくなる時期が到来する思想を指します。日本では平安時代末期に末法の世に入るとされ、この時代背景の中で、人々は現世の苦しみから救われることを願い、死後に阿弥陀如来が迎えに来て極楽浄土に導いてくれるという信仰が広まりました。
阿弥陀如来来迎図は、この信仰の象徴であり、阿弥陀如来が仏や菩薩たちと共に死者を迎えに来る様子を描いたものです。これらの図は、仏教美術の中でも特に重要な位置を占めており、多くの寺院や仏堂で見ることができます。
村上隆の「見返り来迎図」は、京都の永観堂にある見返り阿弥陀像をモチーフにしています。永観堂の見返り阿弥陀は、その名の通り、体を捻って振り返るような姿勢をしていることで有名です。村上は、この見返り阿弥陀の姿勢を取り入れることで、古典的なテーマに現代的なユーモアを加えました。
「見返り来迎図」の技術的な側面も注目に値します。村上はこの作品の背景で印象派の画家たちが多用した点描技法のような表現を駆使し、細部まで緻密に描き込みました。
この技法により、村上は光の効果や色彩の微妙な変化を表現し、作品に深みと動きを持たせています。
村上隆のスタジオワークとプロセスエコノミー
スタジオワーク
村上隆の作品は大掛かりな工房によるスタジオワークによって製作されている事は有名です。
今回の展覧会ではそのスタジオワークでの指示書の展示がされていたのも印象的でした。
制作現場では、多くのスタッフが村上の指示を受けながら作品制作に取り組んでいます。村上はディレクターとして、細かい指示を出し、作品の完成度を高めるために全力を尽くしています。
このため、彼の作品は非常に高い完成度を誇り、多くの人々に感動を与えています。
プロセスエコノミーとしての展示
今回の展覧会の特徴の一つは、未完成の作品を展示し、完成していくプロセスを見せるという点です。
村上は、美術館側のリクエストに応じ、過去の作品だけでなく新作を多数制作する事になりました。
これは過去の作品の多くは海外のお客様が所持されている為、それらを借りて日本に運ぶ為には莫大な輸送費や保険代が必要となる為、限られた予算の中では不可能な為の苦渋の選択でした。
それでもどうしても予算が足りない為、打開策を模索する事に自身のリソースが割かれ、展覧会までの限られた製作期間の中では十分な作品制作を行う事が出来ませんでした。
その為、長い製作期間中に少しずつ完成品を展示していくというスタイルに変更。展示が完成するまでの変化、プロセスも楽しんでいただくという斬新なスタイルの展覧会となりました。
このような展示方法は、現存作家ならではのライブ感あふれるものであり、作品の一部として観賞者に新たな視点を提供します。
村上隆のメッセージ
会場の最後には村上隆の来場者に向けてのメッセージが展示されていました。
そこには今回の展覧会の背景や日本の美術環境に対する現状などと共に「芸術の鑑賞は反芻して行うものであり、その場で簡単に理解できるものではない」と述べ、展覧会を通じて日本における芸術の意味を改めて考えるきっかけになればと願っている様子が伝わってきました。
こちらのメッセージは必読です。
結論
「村上隆 もののけ京都」展は、彼の多様なアートスタイルと日本の伝統美術との融合を楽しめる、非常に貴重な展覧会でした。
村上隆の作品は、現代アートの枠を超え、多くの人々に深い感動と考えさせられるものを提供しています。
この展覧会を訪れることで、世界で活躍するサムライアーティストの努力と創造力を肌で感じることができるでしょう。
村上隆の作品は単なる視覚的な魅力だけでなく、その背後にある深いストーリーやメッセージを持っています。彼の制作プロセスや展覧会の背景を理解することで、作品の見え方や感じ方が大きく変わります。彼の作品を通じて、日本の伝統美術と現代アートの融合の可能性を感じ、芸術の持つ力を再認識することができるでしょう。
以上が、「村上隆 もののけ京都」展におけるレポートです。村上隆の芸術に対する深い理解と情熱が、今回の展覧会を通じて多くの人々に伝わることを願っています。