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納経軸のまくりが台紙から外れても セロテープ は使わないで!
弊社では西国三十三ヶ所や四国八十八ヶ所に代表される納経軸の軸装依頼をよくお受けいたします。
工場での作業開始前に必ず行うことが「まくり」の状態確認。
まくりとは裏打されていない本紙の事を指し、納経軸では集印を頂くための台紙=絹本の事を指します。まくりが貼り付けられてある紙製の巻物は「仮巻」と言います。
仮巻を広げ
墨・朱肉汚れがないか
墨が滲んでいるところはないか
上下左右の余白は十分か
まくりが新しいものなのか、年月が経ったものなのか
などをじっくりと確認します。
気になる箇所は注意事項として工場全体で情報共有し、作品ひとつひとつが最後にベストな状態で仕上がるよう作業を進めます。
外れたまくりを セロテープ で固定する危険性
上述のチェック段階でたまに見かけるのが、一度仮巻から外れたまくりをお客様ご自身でテープ等を用いて貼り直してしまった物。
確かに霊場巡りをしている途中で仮巻からまくりが外れてしまうことはよくありますが、セロハンテープを直接まくりに貼る方法は表具師としてお勧めいたしません。
セロハンテープは手軽に手に入り、どこのご家庭にもある物なのでつい安易に使用してしまいがちですが、実は粘着力がとても強く時間が経つと下の写真のように接着剤部分が変色してしまいます。
更に時間が経ち、絹本に完全に色移りしてしまった状態がこちら。
やっかいなことにこのテープ跡・・・簡単には落ちないのです。
落とすとなるととてつもない手間暇、そして費用が発生する為、こういった作品をお預かりした場合、弊社ではテープ跡をなるべくカットして目立たなくする対応をしております。
しかし、テープ跡が広範囲に広がっている場合、特に西国三十三ヶ所のまくりには菊の御紋が上部に配置されているタイプが多く、菊の御紋をカットするわけにはいかない為、どうしても跡が残ってしまいます。
また、全体のバランスを見てカットする範囲を決めるので、表具師が「仕上がりのバランスが変になる」と感じた時は無理にカットする事はありません。
西国三十三ヶ所で菊の御紋の横までセロハンテープ跡が届いてしまっているケースがこちら。カット出来るのは菊の御紋の上部までとなります。
Before → After
上部: 左右ともに少し残ってしまいました。
下部: カットにより右下のテープ跡はなくなりましが。左は少し残っています。
このようにカットしてなるべく綺麗な状態でお客様にお渡しできるようにはしているのですが、せっかくの納経軸が セロテープ で台無しになるのはもったいない、惜しいなぁといつも感じるのです。 セロテープ も少しの間であれば問題ありませんが、ゆっくり年月をかけて霊場巡りをされる方が多いと思いますので、セロハンテープのご使用はなるべく控えて頂けると幸いです。
どんなテープなら大丈夫なのか?
もしまくりが仮巻からはずれてしまったなら、マスキングテープや養生テープにて固定されるのをお勧めいたします。
これらのテープは元々剥がすことを前提とされて作られているため跡が残りにくくなっています。
その分粘着力は弱いですが、がっちり固定してしまわなくても「粘着力が弱くなれば新しく貼りかえる」で十分だと思います。
カット範囲のご相談にも応じますので、霊場集印軸の軸装で何かお困りでしたらいつでもお問い合わせください。
掛軸の歴史について知りたい方はこちらの動画をどうぞ