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掛軸の機能性
掛軸の機能性
和室には床の間があり掛軸はそこに飾られる。しかしながらそれ以外の調度品は極端に少ない。
日本人は欧米のように壁に多くの絵画を飾る習慣はなく、床の間という絵画専用のスペースを設け、季節や行事によって絵画(掛軸)を取り替えるスタイルで楽しむのである。
この展示スタイルは欧米のそれととても対照的であると言える。ヨーロッパの古い建物や宮殿に見られるように欧米の建物の壁には多くの絵がよく飾られている。例えば壁に100枚全ての絵を飾るのが欧米スタイルであるのに対して日本人はその100枚を全てクローゼットにしまい、その中から一枚のみを選び、短期間決まった場所(床の間)に飾るのだ。それ故、欧米と日本とでは絵から要求される機能性が全く異なるのである。
欧米では絵は長期間展示される為、耐久性が求められ額装にされる。しかし日本では短期間のみの展示を前提としているのでそれほどの耐久性は絵に求められない。むしろ日本人にとっては絵を頻繁に取り替えて飾る為、扱いやすさが絵に求められる最も重要な要素となるのだ。また保存の場所を取らないことも必要な事である。つまり上記の条件を満たすスタイルが掛軸の形なのである。
掛軸は片付ける時に巻かれ展示する際に広げられる。その結果、形状変化に耐える柔軟性と力強さが求められる。その為、本紙は和紙によって裏打ちされ、裂地が周りに取り付けられ、さらに裏打ちされ一体化される。これが掛軸の為の大まかな製造工程である。掛軸が巻かれてもこのスタイルだと本紙はしわや折れ、汚れから本紙を防げる。たとえもし本紙が傷んだり、汚れたりしても、掛軸を再表具する事で本紙の寿命と美的価値は数百年保つ事が出来る。
掛軸は日本人が絵を思い通りに楽しむ事を可能にする理想的な姿なのである。