四方を沙羅双樹に囲まれた寝台に、北枕西面で右脇を下に横たわった釈迦尊。周囲には諸弟子、諸天、多くの眷属や鳥獣までもが集い、「あらゆる命ある者はすべて等しいひとつの命をもって、ともに今この世に存在している」と説いた釈迦尊の死を嘆き悲しんでいる。画面右上部には仏母・摩耶夫人が天から飛来し、涅槃の真の意味を理解し悟りを開いた少数の高弟達は穏やかな表情で寄り添っている。端麗な筆致で人気の高い川村観峰がそれぞれに悲嘆にくれる者達の様子を細部まで精緻に描き込み、仏祖の遺徳を偲ぶ涅槃図を崇高に描いた大作である。