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イギリスから傷んだ掛軸の修理依頼
イギリスから傷んだ掛軸の修理依頼
今回はこちらの2点の掛軸の修理のご紹介をさせていただきます。
今回のお客様はイギリスのお客様になります。そう、UKと言えばロック発祥の地ですね。ビートルズとか良いですよね~。そんなUKからのご相談。
こちらの掛軸はご依頼いただいたお客様のご両親が購入された物らしく、お客様が小さい頃から一緒に育ってきた思い入れのある掛軸との事です。
こちらは松竹梅が描かれている掛軸でおめでたい時に飾られる掛軸ですね。
こちらは赤い梅の絵が描かれている掛軸です。日本では3月くらいの早春の時期に飾られたら良い掛軸ですね。
ただこちらの梅の掛軸は状態があまり良くなく、表具の下の部分が破けてしまっています。
幸い絵の方はそこまで損傷はひどくないのですがところどころ小さく破けている部分があるので注意しながら仕立替をしなければなりません。
それでは早速修理の様子をご紹介させていただきます。
修理の様子
旧裏打紙除去
まずは水で糊をふやかして現在の作品に使われている古い裏打ちの紙を除去していきます。
通常総裏打、中裏打、肌裏打の3枚の裏打ちがされている事が多いので3枚の裏打紙をめくっていきます。(総裏打→中裏打→肌裏打の順番でめくっていきます。)
今、中裏打ちまでめくり終わった状態です。
ここまでそんなに特に苦労することなくめくれたんですけれども問題は肌裏打ちの除去です。これが一番難易度が高い裏打紙の除去になります。逆に言うと中裏打の除去までがめくりにくかったら肌裏打もたいていの場合めくりにくいのでそういう時はかなり時間がかかることを覚悟してやらなければなりません。
良い感じです。接着力の弱い糊です。めくりやすそうです。
ただこれでに調子に乗って一気に焦ってめくろうとすると作品を損傷してしまう恐れがあるので慎重に時間をかけてめくる事が大切です。
この旧裏打紙に糊で本紙がひっついてきて破れてこないようにめくる時は本紙を抑えながら少しずつめくっていきます。
旧裏打紙の除去終わりました。今回は作品の状態も良かったのでそんなに難しいめくりじゃなかったので良かったです。
これが除去した旧裏打紙の残骸です。すごい量ですね。このあと乾かして問題なければ松竹梅の作品は新しい裏打紙を打っていく作業に入ります。
さて、次に梅の方をめくっていきます。初見の印象ではこちらの方はかなり裏打紙がめくりにくいのではないのかなと感じています。
やっぱり想像していた通り全然綺麗にめくれてくれないですね。きつい!
1時間たってやっと上の方だけめくれましたけど本当に思っていた以上にきついですね。全然めくれません。さっきの松竹梅の作品とは全然違います。
これは裏打紙をめくった残骸なんですけどさっきの松竹梅の作品の時のめくれ方と全然違うのがわかりますね。めくりにくい場合、こういう風な小さな破片のようなめくれ方になる場合が多いです。ものすごく頑丈に作品に貼りついてしまっているのでこういう場合はめくるというより指でこすって除去していくしかないです。
無理に力でめくろうとして雑になると作品を破いてしまう恐れがあるのでどんな時でも冷静に少しずつ丁寧にめくってやらなければなりません。
一見するとあまりにも裏打紙が薄いので肌裏打がされていないのかなと感じてしまうんですけど、指でこすっていくとやっぱりめくれてくるのでちゃんと最後までめくっていかないといけません。もしこの肌裏打の紙を除去せずにそのまま新しい裏打をして掛軸に仕上がてしまうと掛軸自体が弾力性のない非常に硬い仕上がりになってしまって無理に巻こうとするとバキバキに折れてしまう原因になったり、残った裏打紙が作品から外れてきてしまって結局新しく打った裏打紙と共にポコポコ裏から浮いてきてしまう原因になったりします。そうなってしまうともう一度表装をやり直さなければならなくなるのでなるべくめくるようにしなければいけません。
二時間かけてやっとこの作品の旧裏打紙を全て除去し終えました。(いやぁ~、きつかった!)
これがめくった後の旧裏打紙の残骸です。すべての旧裏打紙がこういう風な状態になるのはめったにない珍しいケースでした。
この後は、少し乾かしてまだ作品の裏に付着しているわずかな裏打紙の残骸を綺麗に除去してから新しい裏打を行っていきます。
まぁ作品二つとも特に問題なく作品にダメージを与えることなくめくれたっていうのに関してはよかったなと思います。
肌裏打
今から新しい裏打を行っていきます。新しい和紙に糊を塗って作品の裏に刷毛を使って綺麗に接着をさせていきます。
接着が終わったら刷毛で作品と裏打紙の裏から叩いていきます。こうする事で裏打紙の繊維と作品が絡まってより強固に接着します。
裏打が終わったら板に仮止めして乾燥させます。これを「仮張り」と言います。
作品カット、裂地の段取り
乾燥が終わったら裏打紙の余分な部分をカットし、四辺が直角が出るようにカットします。
掛軸に使われる裂地を作品寸法にあわせてカットして準備していきます。
付け回し
作品にカットした裂地を順番に糊で接着していきます。この作業を「付け回し」と言います。
耳折
付け回しが終わったら掛軸の両端を裏側に向かって内側に約3ミリ程折り返して接着させます。こうする事で掛軸の裏側の両端に段差が発生し、掛軸を巻いた際に絵や書の面が直接掛軸の裏側に接する事を防ぎ、作品自身が傷ついたり掛軸の裏側に絵具などが付着する事を防ぎます。この作業を「耳折」と呼びます。
仕上げ
最後に掛軸の上部と下部を仕上げて完成です。
いよいよ完成
こちら2点の掛軸の仕立替が終了いたしました。全体的に良い感じに仕上がったかなと思います。
良い感じに仕上がってくれたのは嬉しいのですが、梅の掛軸は本当に裏打の紙をめくるのが大変でした。苦労いたしました。
松竹梅の掛軸は最初は表装部分に大きなシミが発生していましたがこうやって仕立替をすることで見違えるように綺麗になりました。
梅の掛軸は最初表装部分が既にちぎれてしまっていたのですがなんとか綺麗な形でこういう風に仕立替を行うことができました。
こちら2点の掛軸はお客様が小さい頃から一緒に育ってきた大切な掛軸。しかもそれはお母さまが大切にされていた物という話を聞いていたので、やはりそういうお客様の気持ちを聞くと我々表具師は仕立替をする身として力が入りますね。そういう思いに応えたいという部分が今回のようにしんどい作業があっても乗り越えられる原動力になっていると思います。お客様に喜んでいただけたら本当に嬉しいなと思います。
弊社では今回のようにボロボロに傷んだ掛軸をもう一度飾りたい、大切にしてきた思い入れのある掛軸をもう一度復活させたいというお客様の想いに応えられるように日々精進しておりますのでご要望ございましたら是非ご相談ください。
動画: イギリスから傷んだ掛軸の修理依頼