慶事掛

掛軸の種類: 慶事掛 (祝い掛け) 前編 | 高砂、鶴亀、松竹梅

掛軸の種類: 慶事掛 (祝い掛け) 後編 | 赤富士、日の出、天照皇大神、七福神、蓬莱山

慶事掛

「慶事掛」とは慶び事の行事に飾る掛軸。お正月や結納、出産、長寿のお祝い、新築のお祝いなど様々なおめでたい席を格調高く彩る役割があります。

様々な種類の慶事掛がありますので代表的な掛軸をご紹介させていただきます。

高砂

「高砂(たかさご)」とは老夫婦の姿が描かれた掛軸。この老夫婦の起源は兵庫県高砂市にある高砂神社に伝わる社伝だと言われています。

はるか昔、高砂神社の境内に根は一つですが幹が左右に分かれている珍しい「相生の松」が生えてきたそうです。ある日、その松から老夫婦の姿をした二神が現れて「我は今より神霊をこの木に宿し、世に夫婦の道を示さん」と告げられたそうです。ここから人々はこの松を尊び、この老夫婦を理想の夫婦の姿として結納や結婚式の席で飾る風習が生まれたと言われています。

 

鶴亀

「鶴亀」はお祝いの席であればほぼどんな場面で飾る事が出来る慶事掛の代表のような存在です。日本では「鶴は千年、亀は万年」という言葉があるように長寿の象徴として考えられてきました。実際は鶴が千年、亀が万年生きる事はないのですがどうしてこの二つが長寿の象徴とされるようになったのかというと、一説では古来中国では鶴は仙人が空を飛ぶ為の乗り物、亀は水中を移動する為の乗り物だったと考えられていた為だと言われています。(仙人は不老不死だと考えられていたので当然その乗り物も長寿に違いないという発想だったようです。)

その他に鶴と亀が縁起が良いと考えられる理由には、鶴は一度夫婦になると生涯にわたってつがい関係を維持する一夫一妻制である事から理想の夫婦像として考えられ縁起が良いと考えられてきました。亀は古来中国では四神のうちの一神・玄武の姿だと考えられていたので縁起が良いと考えられてきました。

 

松竹梅

「松竹梅」も万能な慶事掛。こちらも元々は古来中国で人気の画題でした。中国では「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」と呼ばれており、宋の時代(960-1279)によく描かれるようになった画題と言われています。それぞれに以下の特徴から好まれるようになりました。

松: 常緑樹なので常に緑の葉が色褪せない事から繁栄を表します。

竹: まっすぐ伸びる姿が実直さと勢いを、決して折れない特徴が力強さ、色褪せない特徴が繁栄を表します。

梅: 草花が枯れる冬を越えて春一番に花を咲かすのが梅であるので生命力の象徴として考えられます。

これらの考え方が日本に入ってきて人気の画題となりました。特に日本では「高砂」の説明でも述べましたが、松は神様が宿る物だという風に考えられるようになり人気の画題となりました。

「松竹梅」がセットで描かれる場合もありますが、単体でそれぞれ描かれる場合もあります。その場合は松は慶事掛以外に常時掛として飾られる場合もあります。竹は常時掛、梅は季節掛として飾られるのでそれぞれ役割が微妙に変化する場合があります。

 

赤富士

日本を代表する山・富士ですが普段は雪が降り積もっている白富士です。それが夏の終わりから秋の始まりに掛けて太陽光線と気候的な影響の関係で赤く染まる場合があります。これを「赤富士」と言います。日本では万物に生命が宿るという風に考えられており、その中でも山には何か特別な神が存在するという考えがありました。これは中国にも通ずる思想であり、中国では仙人が住む秘境という風に考えられていました。日本ではその影響で山で修業をしたり、寺院を建立したりするといった事が行われました。そんな山の中でも日本で一番大きな山への信仰心は古来より大きい物でした。その富士が普段の白色から真っ赤に染まるという現象は、まさに神秘的な現象…吉祥の前兆と考えられていたのも無理はないですね。(特に日本人は紅白の色の組み合わせは縁起が良いという風に古来より考えられていたのでその思いはさらに強い物となりました。)

日本で絵画として描かれるようになったのは江戸時代の中頃だったと言われており、そこから日本人の赤富士信仰は現代に至るまでずっと続いており吉祥の象徴の代表格と言っても過言ではないでしょう。掛軸としては慶事掛としてお正月に飾られる場合が多いですが、縁起が良い物なので常時掛として飾って楽しまれる方も多いのが特徴の慶事掛となります。

 

日の出

「日の出」は日の出だけが描かれている場合もあれば、海とセット描かれている場合もあります。日本では「初日の出」という新年の始まりの日の出を拝みに行くという風習がありますが、これと同じ意味合いで床の間でも「初日の出」を拝みましょうという事でお正月に飾られる慶事掛になります。日本神話の最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)は太陽の神様と考えられているのでその影響もあって初日の出を拝むという風習は江戸時代くらいから人気となった風習と言われています。

 

天照皇大神

「天照皇大神」という文字が描かれている掛軸が慶事掛として飾られる場合もあります。日本では初詣といって年の初めに神社にお参りにいって去年までの感謝と今年の様々な祈願を行う風習がありますが、神社でその神社それぞれの神様に拝むのと同じで神様の中でも日本神話における最高神である天照大神を自宅の床の間に飾って同様の事を行う意味合いがあります。

この「天照皇大神」の掛軸ですが、農家のご自宅では慶事掛としてだけではなく常時掛としても飾られる場合があります。これは太陽は作物成長の為には欠かせない存在であるので、その年の豊作祈願や感謝の意味合いを込めて普段から飾る為です。

 

七福神

「七福神」は七神の福の神: 恵比寿、大黒天、寿老人、福禄寿、毘沙門天、弁財天、布袋が一堂に描かれた慶事掛になります。全てが日本の神様のように勘違いされている方も多いですが、実は日本の神様は神道の恵比寿のみになります。その他は大黒天、毘沙門天、弁財天は元々ヒンドゥー教の神様なのでインドですし、中国の仏教をベースにした神様が布袋、道教をベースにした神様が寿老人と福禄寿になります。この七福神の掛軸はお正月での慶事掛として飾られる場合が多いですが、御利益を求めて普段掛として好まれて飾られる場合もあります。あまり結納などの席で飾られている場合は見かけないのも面白い特徴ですね。

 

蓬莱山

「蓬莱山」は古来中国の道教の仙人が住んでいる山だと考えられており、日本では昔からよく描かれてきた吉祥の画題です。絵の特徴としては山が描かれているのと仙人が住む楼閣が描かれている場合が多いです。その他祝いの要素である松竹梅や鶴亀、仙人が追加で描かれている場合が多く普通の風景画とは違った雰囲気があるので容易に区別する事が可能です。飾られる場合はお正月や長寿の祝い、新築祝いなどに飾られる場合が多いです。これもあまり結納の席では飾られていないのが特徴です。

主な掛軸

CEO Message

あなたと掛軸との懸け橋になりたい


掛軸は主人が来客に対して季節や行事などに応じて最も相応しいものを飾り、おもてなしをする為の道具です。ゲストは飾られている掛軸を見て主人のおもてなしの気持ちを察して心を動かす。決して直接的な言葉や趣向ではなく、日本人らしく静かにさりげなく相手に対しておもてなしのメッセージをおくり、心をかよわせる日本の伝統文化です。

その場に最もふさわしい芸術品を飾り、凛とした空間をつくりあげる事に美を見出す・・・この独特な文化は世界でも日本だけです。

日本人が誇るべき美意識が詰まった掛軸の文化をこれからも後世に伝えていきたいと我々は考えています。



代表取締役社長
野村 辰二

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会社概要

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商号
株式会社野村美術
代表取締役
野村辰二
本社
〒655-0021
兵庫県神戸市垂水区馬場通7-23
TEL
078-709-6688
FAX
078-705-0172
創業
1973年
設立
1992年
資本金
1,000万円

事業内容

  • 掛軸製造全国卸販売
  • 日本画・洋画・各種額縁の全国販売
  • 掛軸表装・額装の全国対応
  • 芸術家の育成と、それに伴うマネージメント
  • 宣伝広告業務
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