日常掛、常時掛

掛軸の種類: 常時掛 前編 (山水画、四季花、四君子、竹に雀)

掛軸の種類: 常時掛 後編 | 一番初めに揃えておきたい掛軸 (ふくろう、龍虎、書)

季節を問わずに飾る事が出来る掛軸

「日常掛」(常時掛(じょうじがけ)常掛(じょうがけ)とも言う)は季節を問わずに飾る事が出来る掛軸を指します。掛軸の種類の中で一番使用頻度の高い種類なので掛軸を揃えられる上で一番初めに揃えておいた方が良い掛軸になります。

山水・風景画


日本では「風景画」は「山水画」と呼ばれる方が一般的で江戸時代ぐらいまでは「風景画」=「山水画」をほとんど意味していました。

「山水画」は言葉の通り「山」と「水」が描かれている絵。「水」は川であったり、滝であったりとなんらかしらの「水」の存在が描かれおり、その「水」と山が織りなす大自然の風景を描いているのが「山水画」になります。

古来より東洋では神秘的な何かが大自然の中にはあるという世界観がありました。中国ではその大自然に仙人が住んでいたりすると考えられていたり、日本では大いなる神様が宿っていると考えられていたりとその例は枚挙に暇がありません。

人々はいつか俗世を離れ、最終的な自分の理想的な住処として自然を考えるようになり、その大自然が人気の画題となり「山水画」が描かれるようになっていきました。中国では唐の時代には既に多くの山水画が描かれるようになっていたと言われています。

明治時代になって西洋画が日本に入ってくるようになると、西洋画には特に山や水が必ず描かれている訳ではなかったので「山水画」を含めて大きなジャンルとして「風景画」というくくりとなりました。

山水画の中で墨一色で描かれているのを「水墨山水」と言います。墨一色なので季節感がないので季節を問わずに飾っていただく事が出来ます。逆に色が入っている山水画を「彩色山水(さいしきさんすい)」と言います。こちらも基本的には季節を問わずに飾っていただけますが気を付けていただきたいのは季節感がある物が描かれている場合はその季節を表す「季節掛」として扱われます。例えば桜が描かれている山水画は春の季節掛となりますし紅葉が描かれている山水画は秋の季節掛になります。

風景画の中で、山水画以外では「寺院の風景」を描いた物も多く、これらも季節を問わずに飾っていただける掛軸になります。

その他に日本を代表する名所も風景画として描かれる場合が多く、例えば、富士山であったり長野県にある上高地や大正池、青森県の奥入瀬などが良く描かれる画題です。

四季花


「四季花」(しきばな、しきか)は四季をあわらす植物が一堂に描かれている作品。こちらも常時掛けの画題としてよく描かれます。

描かれる花はだいたい決まっており、中国で「百花の王」として考えられてきた牡丹を夏の花として画面中央に描き、一般的に春には梅、秋には桔梗や菊、冬には南天の赤い実が描かれることが多いです。夏は中央の牡丹に追加して菖蒲が描かれる場合もあります。(何故か朝顔は描かれません。) 冬の南天は花ではなく赤い実が描かれるのですが冬はほとんどの草花は枯れてしまうので絵にしやすい物として日本では縁起の良い植物として南天が選ばれたのではないかと考えられます。

この「四季花」の画題は実は昔はそれほど描かれていた画題ではありませんでした。弊社は昔の掛軸をたくさん扱ってまいりましたが四季花という画題が描かれている掛軸というのはあまり記憶にございません。季節関係なく多くの植物を一堂に描いている作品というのはありますが特に四季が揃うように取り合わせているというわけではありませんでした。

恐らく日本の高度経済成長の時期によく描かれるようになった画題ではないかなと私は考えております。この時期は日本では空前のマイホームブームが起こり掛軸の需要も高まりました。そんな中、今までの一般的な常時掛であった「山水画」以外に何か新鮮な画題はないかという模索の中で生み出された画題だと推測しております。

四君子


現代ではメジャーな画題である先述の「四季花」ですが、実はその元になった「画題」というのがありました。それが「四君子」(しくんし)という画題です。

四君子とは「四人の君子」の意味で、「君子」は中国では徳や教養のある人を表す言葉であり、その君子の特徴を表す四つの植物が非常に画題として人気になり古来より中国で描かれてきました。

その君子の特徴を示す植物というのが「梅、竹、蘭、菊」になります。この梅、竹、蘭、菊も四季をそれぞれ一つずつ表すという事で、四つ一緒に描かれた四君子の画題も季節を問わずに飾る事が出来ます。

それぞれの植物のどのような特徴が君子を表す特徴なのかというのが次になります。

  1. 蘭: 担当季節は春。ほのかな香りが気品があるという事で、君子の気品を表します。
  2. 竹: 担当季節は夏。まっすぐ伸びる姿が実直さと勢いを、決して折れない特徴が力強さを、色褪せない特徴が繁栄を表します。
  3. 菊: 担当季節は秋。色とりどり鮮やかに豪華に咲き誇る姿が君子の華やかさを表す。
  4. 梅: 担当季節は冬。四季花では梅は春を表す花として扱われていましたが四君子では冬を表します。これは草花が枯れる冬を越えて春一番に花を咲かすのが梅であるので冬の画題としても春の画題としても扱われる為です。春一番に花を咲かす特徴が生命力の象徴として考えられます。

この画題は中国の宋の時代(960-1279)に描かれるようになったと言われております。水墨画は禅宗と共に中国から日本に伝わったのでこの四君子の画題も日本の鎌倉時代(1185-1333)くらいに伝わったと考えられます。それが昭和の高度経済成長期に四季花としてリメイクされて描かれるようになったという歴史を辿るのも面白いですね。

竹に雀


「竹に雀」は古来より縁起の良い象徴の取り合わせとして考えられてきた日本で人気の画題です。

竹は四君子でも触れましたが、真っ直ぐに伸び、決して折れない特徴が縁起が良いとして日本でも昔から親しまれてきました。

雀も日本では縁起の良い鳥として考えられてきました。古くは白い雀を天皇に献上したという言い伝えがあるそうです。雀は非常に子沢山なので子孫繁栄を表すとして縁起が良いという風に考えられていました。また、雀は人間社会の近くに生息し、人間や人工物の恩恵を受けて共生します。人が移動するとそれに合わせて自分達も住処を変えるという非常に面白い特徴を持っております。常に人間のそばで生活をする鳥なので非常に身近な存在として親しまれてきました。こういった特徴を持つ動植物を指してシナントロープといいます。動物のこういった性質が掛軸にも関わっていると考えると面白いですね。

この縁起の良い竹と雀を組み合わせた紋様が日本では昔から縁起の良い取り合わせとして様々な場面で使われてきました。上杉謙信で有名な上杉家の家紋や伊達政宗で有名な伊達家の家紋など武家の家紋にも頻繁に用いられています。

ふくろう


日本人は語呂と当て字と駄洒落が非常に好きな国民。何か縁起が良いと考えられている物の理由を探るとだいたいこの3つが関係している場合が多いです。

その最たるものが「ふくろう」と言っても過言ではないでしょう。

ふくろうは当て字で考えると以下のような当て字が考えられる為、縁起が良いと考えられています。

  1. 「福籠」…福が籠に沢山貯まるという意味。
  2. 「不苦労」…苦労がなくなるという意味。
  3. 「福老」…幸福に年を重ねるという意味。
  4. 「福来」…福が来るという意味。

その他にも、ふくろうは360度首が回る特徴から商売繁盛を表す(日本では「金が回る」事を「首が回る」と表現します。)ので縁起が良いと考えられています。

このふくろうの画題も昭和の高度経済成長時期くらいからよく描かれるようになった画題として考えられます。

ふくろうが縁起の良い鳥として考えられるのは日本だけではなく、世界の他の国々でも縁起の良い鳥として考えられているようです。たとえば古くはギリシャ神話に登場する知恵の女神・アテナの象徴として考えられています。

龍虎


龍と虎も常時掛の画題としてよく描かれます。セットで描かれる場合もあれば単体で描かれる場合もあります。両方とも邪悪な物を打払う守り神的な意味合いで常時掛として飾られる場合が多いです。

また力強い象徴として、端午の節句に男児のたくましい成長を願って節句掛として飾られる場合もあります。

龍も虎も古くから描かれてきた画題で、龍は特に江戸時代に日本最大規模の画家集団である狩野派に好んで描かれた画題でした。

虎も昔からよく描かれていた画題なのですが、日本には昔は虎が生息していなかったので大型の猫として想像して描かれていました。円山応挙も虎を描いておりますが大型の猫の姿でした。

日本で一番初めにリアルな虎を描いた作家として知られているのは江戸時代の佐伯岸駒(さえき・がんく)。岸駒は虎の頭蓋骨を手に入れ、それに毛皮を被せて実際の虎を研究したと言われています。

その後、明治時代になりサーカスや見世物興行で虎を見る事が出来る機会が増えました。この機会を利用してよりリアルな虎を描く事で世界中に認められた画家が大橋翠石と言われています。

現代の虎絵のほとんどはこの大橋翠石の虎絵の影響を受けていると言っても過言ではないでしょう。


書は内容によって飾られる季節や行事が異なりますが、一般的に季節を問わずに飾られる書の掛軸をご紹介いたします。

 

和敬清寂(わけいせいじゃく)


和敬清寂(わけいせいじゃく)とは、茶道の心得を示す標語。意味は、主人と賓客がお互いの心を和らげて謹み敬い、茶室の備品や茶会の雰囲気を清浄にし、心を静かに落ち着ける事が大切という意味。

 

日々是好日(にちにちこれこうじつ、ひびこれこうじつ)


「日々是好日」は禅語のひとつ。表面上の文字通りには「毎日毎日が素晴らしい」という意味。

そこから発展して「毎日が良い日となるよう努めるべきだ」という解釈や、さらに進んで「そもそも日々について良し悪しを考え一喜一憂することが誤りであり常に今この時が大切なのだ」、あるいは、「あるがままを良しとして受け入れるのだ」、といった解釈がされています。

 

主な掛軸

CEO Message

あなたと掛軸との懸け橋になりたい


掛軸は主人が来客に対して季節や行事などに応じて最も相応しいものを飾り、おもてなしをする為の道具です。ゲストは飾られている掛軸を見て主人のおもてなしの気持ちを察して心を動かす。決して直接的な言葉や趣向ではなく、日本人らしく静かにさりげなく相手に対しておもてなしのメッセージをおくり、心をかよわせる日本の伝統文化です。

その場に最もふさわしい芸術品を飾り、凛とした空間をつくりあげる事に美を見出す・・・この独特な文化は世界でも日本だけです。

日本人が誇るべき美意識が詰まった掛軸の文化をこれからも後世に伝えていきたいと我々は考えています。



代表取締役社長
野村 辰二

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会社概要

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商号
株式会社野村美術
代表取締役
野村辰二
本社
〒655-0021
兵庫県神戸市垂水区馬場通7-23
TEL
078-709-6688
FAX
078-705-0172
創業
1973年
設立
1992年
資本金
1,000万円

事業内容

  • 掛軸製造全国卸販売
  • 日本画・洋画・各種額縁の全国販売
  • 掛軸表装・額装の全国対応
  • 芸術家の育成と、それに伴うマネージメント
  • 宣伝広告業務
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