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オーストラリアから絹に描かれた掛軸作品のシミ抜き依頼
掛軸の修理のお悩みで最も多いご相談の一つが掛軸に発生してしまったシミです。
シミの発生原因はさまざまあるようですが、解決策としてはシミ抜きをする他ありません。
シミ抜きは掛軸を完全に解体して作品に取り付けられている裂地や裏打紙を完全に除去した後、薬剤を用いてシミ抜きを行い、水洗いを行わなければならないので再表装が前提のお仕事になります。
掛軸の修理作業の中でも最も難易度の高い仕事の一つであり、作品やシミの状態によっては完全に抜けきれなくても作品保護の観点からシミ抜きを終了する判断も下さなければならないデリケートな仕事です。
今回はそんなシミ抜きのご相談をオーストラリアにお住いのお客様(男性)より頂戴いたしました。
この方は以前も弊社で掛軸の修理のご依頼をしてくださったリピーターの方です。(最近海外のお客様でもリピーターの方が増えてきて本当に嬉しいです。)
今回ご相談いただいた掛軸がこちら。前回も雉の掛軸でしたが今回も雉の掛軸です。かなり大きい作品です。
前回は紙本に描かれた作品でしたが今回は絹本に描かれた作品です。
全体的にシミが大量に発生してしまっています。
こういった赤い絵の具は水を使用すると滲んでしまう恐れが非常に高いので作業前の色止めを入念に行わなければなりません。
白の絵具(胡粉)は元来剥落しやすい性質を持っている為、仕立替やシミ抜き作業を行う際は細心の注意が必要です。(作品の劣化が激しい場合は、どれだけ注意をしても剥落する可能性がある事をお客様にあらかじめ了承していただいてから作業に入るようにしています。)
詳細打ち合わせ
お客様と仕立替の詳細について打ち合わせをさせていただき、以下の通りで実行する事になりました。
シミ抜き: 色流れの恐れがあるので出来る限りの範囲で行う。
表装形式: 行の行スタイル
仕上げ寸法: お任せ。現状より少し小さめに仕立てる。
裂地: 以下の写真の通り。
今回、お客様は裂地のご要望として無地で素朴な落ち着いた風合いの物をご所望でしたので数種類ご提案させていただきました。お客様が希望されましたのは写真の一番左側の濃いベージュ色の裂地でした。
修理工程
今回の大まかな再表具のオペレーションの流れは以下です。
色止め (薬剤で絵具を定着。)
↓
作品解体 (古い裂地や軸棒などの取り外し。)
↓
旧裏打紙を除去 (作品の裏側から旧裏打紙をめくって除去。)
↓
洗浄 (薬剤を用い、出来る限り綺麗にします。)
↓
再表具 (お客様のご要望の裂地で掛軸に仕立てていきます。)
修理完了
今回はサイズが大きい掛軸でしたので修理作業も表装作業も大変でしたが無事に仕上がりました。
お客様のご希望で全体的に少し小さくお仕立いたしました。また、風帯と呼ばれる掛軸の上部に取り付ける縦長の帯をお客様のご希望で厚みのある硬めの仕立に致しました。
色流れや胡粉の剥落も発生する事なく、シミを綺麗に除去できました。
お客様の声
早速オーストラリアにお送りさせていただき、掛軸をご覧になられたお客様からこんな感謝の声を頂戴することが出来ました。
Dear Mr Nomura
A quick note to say thank you once again. You and your team have done a marvellous job treating the staining and remounting the kakejiku. Your suggestions for the choice of textiles, are once again showing the painting to best advantage. I couldn’t be happier with the result. I look forward to doing more business with you in the future.
P.S that was a very fast delivery.
要約すると以下の通りです。
野村さんへ
早速ですが、改めてお礼を申し上げます。あなたとあなたのチームは、シミの処理と掛軸の再表装という素晴らしい仕事をしてくれました。あなたの裂地の選定の提案は、再びこの作品を最高の状態にしてくれました。私はこの結果にとても満足しています。今後も御社とのビジネスを楽しみにしています。P.S. 非常に迅速な配送でした。
オーストラリアはEMSがまだ利用できないのでDHLを使って発送したのですが、問題なくスムーズにお届けできたようで何よりです。
結果にも大変満足していただけたようで今回も期待にお答えできたようで嬉しく思います。
こちらがお客様が飾られている様子の写真です。
今回もとてもセンス良く飾ってくださっていますね。
日本では床の間に飾られるのに見慣れてしまっているので、海外のお客様の飾り方を拝見させていただくととても新鮮な気持ちになれるのでいつもとても楽しみにしております。
この度も弊社にご依頼ありがとうございました。
弊社は今回のようにシミの発生した掛軸の修理もグローバル対応で承っておりますのでお困りの方は遠慮なしにお気軽にご相談ください。