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アメリカからの熱意! ボロボロの鷲の掛軸を蘇らせる修理
世界には日本の文化を非常に好んでくださる方が数多くいらっしゃり、作品の保全に努められる方もいらっしゃいます。
今回のエピソードはアメリカにお住いのお客様よりボロボロに傷んだ鷲の掛軸の修理に関するものです。
お客様は日本の文化を守る為にご自身が持たれている掛軸の修理を検討されていた際に、弊社が以前請け負ったドイツのお客様の虎の掛軸修理の記事をご覧になられご相談されたそうです。
こちらがご相談いただいた鷲の掛軸です。ドイツのお客様の虎の掛軸と同等かそれ以上に傷んでいました。
掛軸の上部の左部分には黒い汚れが付着しており、所々作品が裂けてしまっていました。
既に欠損してしまっている部分も複数見受けられます。
全体的に非常に脆弱で危険な状態です。
この掛軸の修理は相当な時間と労力が求められる事は容易に想像出来ましたので、お客様に費用や納期に関して十分にご説明させていただきましたが、それでもお客様の修理に対する決心、熱意は変わる事は無くプロジェクトを進める事になりました。
また、お客様は仕立にご自身の理想のイメージを持っておられ、それを伝えようとムードボードを作成してくださいました。
お客様の求めるイメージは「静かなる力強さと自然感」といったイメージのようでしたのでその雰囲気に沿うように表装の裂地などをご提案させていただきました。
修理工程
今回の大まかな再表具のオペレーションの流れは以下です。
色止め (薬剤で墨や絵具を定着。)
↓
作品解体 (古い裂地や軸棒などの取り外し。)
↓
旧裏打紙を除去 (作品の裏側から旧裏打紙をめくって除去。)
↓
洗浄 (薬剤を用い、出来る限り綺麗にします。)
↓
肌裏打 (作品裏に行う裏打)
↓
折れ伏せ (肌裏打紙の裏から細い和紙を当てて行う補強)
↓
補彩 (作品の欠損部分に加筆を行い自然に鑑賞できるようにします。)
↓
再表具 (お客様のご要望の裂地で掛軸に仕立てていきます。)
こちらが「折れ伏せ」作業を行った様子です。細い和紙を作品の折れが発生している箇所に肌裏の後ろから貼り付け補強しています。折れ伏せの量が作品の傷み具合を物語っています。
こちらが補彩前の状態です。欠損している部分などが鑑賞の妨げになっています。
こちらが補彩後の作品の状態です。作品全体が均一な印象になり違和感なく鑑賞する事が出来ます。
修理完了
長かった掛軸の修復がついに完了いたしました。こちらが仕立替を行った掛軸です。汚れも落ち、傷みも出来る限り修復し、見違えるようになりました。鷲の描写にも力強さがみなぎっているようです。
今回は作品の今後の保存の事も考慮して太巻と二重箱で保管するようご提案させていただきました。
お客様のご希望で桐箱にリクエストのあった文字を揮毫いたしました。
お客様からの声
早速アメリカのお客様の元にお送りさせていただきました。
お客様からはこんな嬉しいメッセージを頂戴いたしました。
Dear Yuuichi,
The package arrived safely this evening. The box is wonderful, and the scroll is magnificent. We are very pleased and happy with the result 🙂 We cannot thank you enough for the restoration, and for your patience, guidance, and kindness throughout the process.
ゆういちへ、
今晩、無事に荷物が届きました。箱も素晴らしく、掛軸も見事です。とても満足しています。修復、そしてその過程を通しての忍耐、ご指導、ご親切には感謝してもしきれません。
お客様にもご満足いただけたようで弊社としてもこれに勝る喜びはありません。長い時間をかけて修理修復を行ってきた苦労が報われた瞬間です。
日本の文化を守りたいと思われているのは日本人だけではなく海外の方も同じなのだと改めて感じました。
弊社では今回のような修理のご相談を受け付けておりますのでお気軽にお問い合わせください。