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オーストラリアから届いた激しく傷んだ海老の掛軸の修復

弊社が本格的に海外のお客様と取引を開始してから、約10年が経過しました。これまでに多くの素晴らしいご縁を頂戴し、心より感謝申し上げます。
中には弊社の仕事を気に入ってくださり、何度も継続してご依頼をくださるお客様もいらっしゃり、本当にありがたい限りです。
今回は、そんなリピーターであるオーストラリア在住のお客様から再びご依頼をいただいた、海老の掛軸修復事例をご紹介いたします。
オーストラリアから海老の掛軸の修理依頼
今回ご相談を頂戴したのはこちらの海老が描かれた掛軸です。水墨で力強く描かれ、画面下部から上部へとのびやかに伸びる海老の髭が非常に印象的な作品です。

しかしながら、全体に強い経年汚れが見られ、さらに作品全体に深刻な折れジワが多数発生しており、鑑賞にも保存にも支障の出る状態でした。

このような深刻な折れジワは、通常の補強作業だけでは完全な改善が難しく、再発のリスクも高くなります。そのため今回はお客様へ太巻仕様の桐箱による保管をご提案させていただき、お客様にも快くご承諾いただきました。
太巻についてはこちらの記事をご参照ください。
お客様と裂地や仕様の打ち合わせを行い、今回はこちらの裂地の組み合わせで仕立替を行う事が決定いたしました。

修復内容と工程の詳細
今回の修理では、以下の流れで作業を進めました。
1. 作品解体
現在の掛軸から古い裂地や軸棒を慎重に取り外します。作品に負担がかからないよう細心の注意を払って作業を行います。2. 旧裏打紙の除去(めくり作業)
作品の裏側に接着された古い裏打紙を丁寧に取り除きます。今回のように劣化が激しい作品では通常よりもはるかに神経と時間を要する工程となります。3. 作品洗浄&シミ抜き
作品の汚れを落とすための洗浄とシミ抜きを行いました。4. 肌裏打ち・折れ伏せ
肌裏打ちを施し、折れによるダメージを折れ伏せによって補強しました。5. 再表具
最後に、お客様にお選びいただいた裂地を用いて、新たな掛軸として仕立て直しました。
表装作業完了
旧裏打紙の除去には予想以上の苦労がありましたが、ひとつひとつの工程を丁寧に積み重ねることで、無事に再び飾っていただける状態へと仕立て直すことができました。

今回は下の写真のように太巻仕様の桐箱で保管しております。このように掛軸の直径を大きく巻いて保管する事で作品への負荷を軽減する事が可能なのです。

お客様のご自宅にて
お客様は到着した掛軸をさっそくご自宅に飾ってくださいました。和室の床の間ではなく洋室の白壁に飾られていますが、周囲のインテリアとの調和も素晴らしく、とても洗練された空間となっております。

弊社では国内はもちろん、海外からの掛軸修復・表装のご依頼にも数多く対応してまいりました。
大切な美術品を「もう一度飾れる状態にしたい」「次の世代へ残したい」とお考えの方は、ぜひ一度、弊社までご相談ください。作品の状態を拝見した上で、最適な修復・保存方法をご提案させていただきます。
