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掛軸の表装形式変更|三段表装から丸表装へ仕立替

掛軸の表装形式は日本でオーソドックスに使われてきた三段表装や、シンプルな丸表装、佛事掛に一般的に用いられる仏表装などがあります。

掛軸の仕立替の際に現状の表装形式から異なる表装形式に変えて欲しいというご要望を頂戴する事があります。
今回はオーストラリアのお客様よりお預かりした、枝にとまる黒い鳥を描いた掛軸の仕立替で表装形式を変更した事例をご紹介致します。
同じように古い掛軸を仕立て替える際に表装形式の変更を検討されている方の参考になれば幸いです。
ご相談内容
今回ご相談くださったのはオーストラリアのお客様。
以前にも弊社へ修理をご依頼くださったリピーターのお客様で、今回も大切な掛軸の仕立替をお任せくださいました。
作品は枝にとまる黒い鳥と紅葉が描かれた、静かな季節感のある一幅です。

お客様からは、作品の細かな傷みや表面の汚れについてご相談をいただくとともに、表装は現状の三段表装から丸表装へ変更したいというご希望を頂戴しました。
このような表装形式の変更は作品の印象をより自分好みに整えたいという理由でご相談をいただくことが多いです。
今回のように三段表装から丸表装に変更する場合は特に問題はないのですが、逆に丸表装から三段表装に変更する場合には注意が必要です。
というのも、丸表装に仕立てられている本紙(作品部分)は比較的長めのものが多く、それを通常通りの割合で三段表装に仕立てると全長がかなり長くなってしまうことがあるからです。
日本の住宅では床の間に掛けることが多いため、この長さが問題になることがあります。
海外では床の間に飾らない場合も多いため長さをそこまで気にしなくてもよいことがありますが、日本国内で飾る掛軸の場合はこの点に気を付けた方がよいです。
もちろん、三段表装の裂地寸法を通常より短くして全長を抑えることは可能です。
ただ、その場合は表装全体のプロポーションが崩れ、見た目が不格好になってしまうことがあります。
ここが、表装形式変更の難しいところです。
以前この件に関しては別記事で詳しくまとめてますのでよろしければご参照下さい。
また、裂地については華やかすぎる方向ではなく、落ち着いた印象にしたいという明確なイメージをお持ちでした。
今回の案件では単に古くなった表装を新しくするだけでなく、この作品にふさわしい雰囲気へ整え直すことが重要なテーマとなりました。
状態確認|シミは改善と本紙の傷み
まずは作品の状態を実際に確認しました。
全体として鑑賞を妨げるほどの大きな破損ではありませんでしたが、お客様は本紙の細かな傷みや表面のわずかな汚れを気にされていました。

こうした本紙そのものに生じている傷については仕立替によって印象を整えることはできても完全に無かったことには出来ません。
一方で、画面上に見られたシミについては、洗浄やシミ抜きによってかなり改善が見込める状態でした。
このように修理では「良くなる部分」と「限界がある部分」をきちんと見極め、お客様に誠実にお伝えすることが大切です。
弊社の方針と提案
今回の作品は、黒い鳥と紅葉が印象的などこか秋から冬にかけての静けさを感じさせる画面です。

裂地については、華やかな花柄ではなく、より落ち着いた雰囲気のものをご希望でした。
そこで弊社では作品の空気感を壊さず、なおかつ単調になりすぎないよう、質感と色味のバランスを重視して候補を探していきました。
この案件では、お客様の好みをただ聞くだけではなく、作品の絵柄や季節感、飾った時の見え方まで含めて提案することが重要でした。
裂地選びの工程|理想の色味にたどり着くまで丁寧にすり合わせ
表装の印象を左右するのが裂地です。
今回も最初からすぐに決まったわけではなく、いくつかの候補をご提案しながらお客様の感覚とすり合わせを重ねていきました。

お客様は赤茶や干し柿のような茶色、シナモンやナツメグを思わせるような、温かみのある茶系の色味をイメージされていました。

また、模様が強すぎるものではなく、無地調あるいは質感の美しい裂地がお好みであることも分かってきました。
こうしたやり取りをもとに、最終的に落ち着いた茶系の裂地をお客様にお選びいただきました。

この裂地は紅葉の色味とも自然になじみ、黒い鳥の姿を引き立てながら、作品全体にやわらかな温かみを与えてくれるものでした。
さらに一文字についても、主裂地との相性を見ながら控えめな候補を複数選定しました。

一文字は小さな部分ですが、ここで品よくまとめることで全体の完成度が大きく変わります。
今回は以下の軸先を特別に使用して欲しいというリクエストも頂戴しました。

修理・仕立替の工程
今回の修理は、以下の流れで作業を進めました。
- 作品解体
現在の掛軸から古い裂地や軸棒を取り外します。本紙に負担をかけないよう、慎重に解体していきます。- 旧裏打紙の除去
掛軸の裏側にある古い裏打ち紙を取り除く作業を行いました。- 作品洗浄・シミ抜き
汚れを落とすための洗浄を行い、状態を見極めながら可能な範囲でシミ抜きを施します。- 再表具
お客様にお選びいただいた裂地を用いて、新しい掛軸として仕立て直します。
苦労した点
今回最も大変だったのは、お客様も気にされていた傷の部分です。
傷があるという事は他の部分に比べると脆弱な状態になっているという事なので、傷を広げないように細心の注意が必要です。
また、傷そのものを消すことはできませんが、なるべく目立たないようにするため、過去の経験をもとに適切な対処を行いました。
完成後の印象|静かな画題にふさわしい落ち着いた一幅に
こちらが仕立替が完了した掛軸です。
温かみのある茶系の裂地に、控えめな一文字を合わせた非常に落ち着いた仕上がりとなりました。

もともとの作品が持っていた静かな緊張感や季節感を損なうことなく、以前よりも空間になじみやすく、かつ品よく見える一幅になったと感じています。
黒い鳥の姿はより引き締まって見え、背景に描かれた紅葉の色味も自然に活きるようになりました。
丸表装に変更した事によって、派手に生まれ変わったというよりも作品の魅力を無理なく引き出し直したといったイメージです。
古い掛軸の再表装では、新しさだけを目指すのではなく、その作品らしさをどう守りながら整えるかが重要です。
今回の事例はその点がよく表れた仕上がりになりました。
お客様の反応|オーストラリアで無事に飾られ、喜びの声をいただきました
完成した掛軸はオーストラリアのお客様のもとへ発送され、その後、無事到着したとのご連絡をいただきました。
さらに、仕上がりについて
あなたの尽力の結果は、今回もいつものように素晴らしいです。 (The results of all your efforts are excellent as always . )
と嬉しいご評価を頂戴いたしました。
加えて、実際に掛軸を飾ってくださったお写真もお送りいただきました。

工房で完成した段階でももちろん嬉しいのですが、やはり実際の空間の中で美しく飾られている様子を見るとこの仕事の意味を改めて感じます。
掛軸は作って終わりではなく、飾られてこそ本当に息を吹き返します。
海外の住まいの中で、今回の一幅が新たな役割を持っていることを拝見できたのは弊社にとっても大きな喜びでした。
まとめ|掛軸修理・表装形式変更も承ります
今回の事例ではお客様のご希望により、作品の雰囲気に合う表装形式へ整え直しました。
また、裂地選びにおいても、お客様の好みを丁寧に伺いながら、作品にとって最も自然な着地点を一緒に探していきました。
- ・表装が傷んできた掛軸をもう一度きれいに整えたい方。
- ・自分好みの表装形式へ仕立て替えたい方。
- ・作品に合う裂地を相談しながら進めたい方。
そのような方は、ぜひ弊社までご相談ください。
弊社では、作品の状態だけでなく、その作品が持つ雰囲気や飾られる空間まで意識しながら、最適な仕立替をご提案させていただきます。

