素材

日本画は千数百年の歴史の中でその絵画様式は時代の変遷により変化してきたが天然岩絵具に膠を混ぜて描くという、最も基本的な素材は受け継がれてきた。墨や板、絹や紙もまた使用されてきた。日本画では金属材料までも画材として用い、独特な美の世界を生み出してきた。このほかにも、今日では人工的に色々な色の顔料を作ることが出来るが、古い時代には天然岩絵具にはない色を、天然の染料を顔料化する事でつくり、絵具として用いていた。
日本画は古くから岩石、土壁、板、麻、絹、紙など、膠で顔料が定着する様々な素材に描かれてきた。基底材と絵画技法には密接な関係があり共に発展してきた。

基底材

絵画を描く支持体のことを「基底材」という。日本画は古くから岩石、土壁、板、麻、絹、紙など、膠で顔料が定着する様々な素材に描かれてきた。絵画の発展と宗教の関わりは深く、宗教の世界観を空間的に表現する為に、墳墓や寺院などの壁体に描かれていた壁画がしだいに可動的な素材に描かれるようになった。基底材と絵画技法には密接な関係があり、ともに発展をしてきた。

特に掛軸の基底材としては絹や和紙が一般的に用いられる。これは基底材自体の厚みが非常に薄く掛軸に向いていた為である。

掛軸は片付ける時に巻かれ展示する際に広げられる。その結果、形状変化に耐える柔軟性と力強さが求められる。基底材が厚く硬い性質のものであれば、掛軸を巻く際に、作品自体にシワ、折れ、ひび割れ、絵具の剥落などの損傷が起こる可能性がある。その為、薄い素材である絹や和紙が重宝される。

東洋画の最も代表的な墨色黒色材料。墨の歴史は古く中国に始まる。漢代の遺品から木炭や石炭の粉末を布海苔で練り固めて丸薬状にした炭団状の墨が発見されており、墨の原形と考えられる。炭団状の炭は、硯の上で磨石や磨具で練りつぶして用いたと考えられる。今日まで伝承されている固形炭の製墨技術が発展したのは唐代頃といわれ、正倉院に遺品が見られる。固形墨は松の木や、植物の油を燃やした煤を膠で練り固め、木型に入れて成形後、乾燥させたものである。中国では文人の自娯として製墨技術が発展し、古いものでは芸術的にも非常に優れたものがある。松煙墨と油煙墨とがあり、製造年代、生産地により墨色が異なる。膠の臭いを消す為に麝香などの香料を加えてあるので、摩りおろすと独特な香りがする。

唐墨に対して日本製の墨を和墨という。奈良や紀州和歌山、三重県鈴鹿白子などで生産されている。製造工程で使用する水分が、唐墨よりもやや多いことから、乾燥は灰の中に入れて徐々に行う。

 

岩絵具

天然岩絵具とは天然成分(鉱物、貝殻、珊瑚、そして孔雀石や藍銅鉱、辰砂のような半貴石)を粉砕してつくった顔料(顔料とは水に溶けない性質の色料)。代表的なものに群青、緑青、辰砂、金茶などがある。原料は粒質の粗さにより16の段階の粉末にされる。粒子が細かいほど淡く、粗いほど濃い色調となる。最も細かいものは白(びゃく)という。焼く事で色調を増やせるものもある。

岩絵具は塗り重ねる事が出来、重ねれば重ねるほど鮮やかさを増していく性質がある。額装用の作品にはこの性質を活かし、幾重にも絵具を塗り重ねる手法がよく用いられる。
反対に軸装は塗り重ね過ぎると作品自体が硬くなり、掛軸を巻く際に作品を損傷する恐れがある為、あまり塗り重ねを多用しない。

「厚塗り」「薄塗り」という表現がこの性質を表す時によく用いられる。

胡粉

白色系顔料。現在では貝殻胡粉の事を指すが、奈良時代頃から鎌倉時代頃までは鉛白のことを胡粉と呼んでいた。胡の国(ペルシア)から伝来した粉という事から付けられた名称。貝殻胡粉が主流になるのは室町時代以降である。貝殻胡粉の主成分は炭酸カルシウムで、原料のいたぼ牡蠣の貝殻を風化させ、砕いて精製してつくる。変色がなく安定しているが、溶き方や塗り方、保存環境によっては剥落したりカビが発生したりする事がある。いたぼ牡蠣の上蓋と下蓋の混合比によって上胡粉、並胡粉などと分けられ、上蓋が多いほど純白に近く、明度が高い。原料に蛤を用いたものもある。胡粉は種類によって下地として使われたり、下描きの為に使われたりする場合もある。

 

金属材料

金や銀などの金属は箔や泥(でい)として古くから日本の絵画材料に用いられてきた。金属材料による表現は日本絵画の特色のひとつに挙げられる。現在では金や銀のほかにプラチナや銅、アルミニウムなどの様々な金属が箔や泥として使用されている。

 

 

 

道具 / 絵具溶き

絵を描く際の様々な道具

皿に絵具と膠を混ぜて中指の腹で溶かしていきます。


参考図書

日本画用語事典 : 東京藝術大学大学院 文化財保存学日本画研究室 [編]

日本画に関わる幅広い情報が写真と図解で懇切丁寧に解説された絶対的な参考書。出版はなんとあの東京藝術大学。明治時代になり西洋画に対して生まれた日本画の歴史の中で切っても切れない存在である東京美術学校が今の東京藝術大学であり、その歴史に恥じる事のない内容となっています。総監修はなんとあの故・平山郁夫画伯、監修は院展でも大活躍中の田渕俊夫画伯(東京芸術大学名誉教授、日本美術院理事長)。

内容は基本的には用語事典なのですが、それだけにはとどまらない道具の扱い方や制作方法などにも言及している唯一無二の日本画百科事典と言っても過言ではない内容です。

第1部 日本画

第一章: 日本画

伝統的な日本の絵画、日本画の流派

第二章: 素材

基底材、顔料、接着剤、金属材料、染料、媒染剤、墨

第三章: 道具

筆・刷毛、硯、印、その他の道具

第四章: 表現技法

第五章: 模写

模写の目的や特集、手法・種類・技法、これからの模写の方向性

第2部 表装・文化財修理について

第一章: 表装

掛軸、巻子、屏風、冊子

第二章: 文化財修理

特集文化財修理事例

第三章: 裂

第3部 保存科学

第一章: 光学調査

第二章: 文化財の保存環境

第4部 古典絵画の研究

実例の詳細な解説10点以上

 

正直な感想としては「よくここまでこれだけの情報を1冊にまとめたな…」という圧巻の内容に恐れ入ります。恐ろしい程の労力と熱意をこの本から感じ取ることが出来ます。もちろん内容も非常に表具師としても参考になりますし、いち日本画ファンとしても大変勉強になる内容です。

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CEO Message

あなたと掛軸との懸け橋になりたい


掛軸は主人が来客に対して季節や行事などに応じて最も相応しいものを飾り、おもてなしをする為の道具です。ゲストは飾られている掛軸を見て主人のおもてなしの気持ちを察して心を動かす。決して直接的な言葉や趣向ではなく、日本人らしく静かにさりげなく相手に対しておもてなしのメッセージをおくり、心をかよわせる日本の伝統文化です。

その場に最もふさわしい芸術品を飾り、凛とした空間をつくりあげる事に美を見出す・・・この独特な文化は世界でも日本だけです。

日本人が誇るべき美意識が詰まった掛軸の文化をこれからも後世に伝えていきたいと我々は考えています。



代表取締役社長
野村 辰二

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会社概要

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商号
株式会社野村美術
代表取締役
野村辰二
本社
〒655-0021
兵庫県神戸市垂水区馬場通7-23
TEL
078-709-6688
FAX
078-705-0172
創業
1973年
設立
1992年
資本金
1,000万円

事業内容

  • 掛軸製造全国卸販売
  • 日本画・洋画・各種額縁の全国販売
  • 掛軸表装・額装の全国対応
  • 芸術家の育成と、それに伴うマネージメント
  • 宣伝広告業務
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