「妙心寺 -禅の継承-」見どころ解説

概要「妙心寺 -禅の継承-」

2026年2月から大阪市立美術館で行われる「妙心寺 -禅の継承-」は簡単に言うと「妙心寺に関する名宝を色々見せまっせ展」であり、桃山美術の絢爛豪華な作品群が一堂に揃う大注目の展覧会です。

その中でも大注目はやはり狩野山楽・山雪師弟の作品群。二人とも戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した狩野派の絵師。本来であれば日本美術史の中でもっと注目されるべき実力を持っていたにもかかわらず時代の波に飲まれ長らく傍流扱いされてきた人物です。

以前、この二人に関する生涯をまとめた記事と動画がございますので何故彼らが歴史の影に埋もれてしまったのかについてはそちらをご参照ください。

今回はそんな二人の作品にスポットを当てて妙心寺展の見どころを解説していこうと思います。

狩野山楽・山雪「竹虎図襖」

まずは狩野山楽・山雪の合作とされる妙心寺天球院の襖絵「竹虎図襖」。竹林の中に複数の虎が描かれているのは画題としてはよくあるテーマ。

豹が一匹描かれているのは、雌の虎として考えられていた為。日本には元来、虎は生息していなかった為、日本の絵師達は大型の猫として想像して描いていたが、雌は雄とは異なるという推測の元、豹が虎の雌なのだと考えられ古来よりよく一緒に描かれてきました。

本作品の見どころはまずは特徴的な竹の描写です。画面全体に立ちのぼる竹は、ほとんど定規を当てたかのように真っ直ぐ描かれ、垂直線のリズムが空間を支配しています。その直線性は狩野山雪に特有の幾何学的構成感覚を端的に示すものであり、自然物を理知的なデザインへと昇華させる彼の造形思想を物語っています。幾何学的表現というのが分かりにくい場合は「図形チック」と置き換えるとイメージしやすいかもしれません。水直線や水平線などが随所に感じられるのが狩野山雪の作品の特徴です。

一方で、画面を大きく区切る金雲の縁には、うっすらと白い胡粉で輪郭線が引かれているように見えます。

もしこの金縁が画像の通りに存在するとするならば、この繊細な処理には狩野山楽の作風が色濃くあらわれていると言えます。同様の表現は大覚寺の牡丹図襖にも見られ、金地と画中のモチーフを柔らかくつなぎながら、画面全体に品格ある抑揚を与える山楽ならではのテクニックといえます。

狩野山楽「牡丹図襖」@大覚寺展

天球院襖絵においては、この「山楽イズム」が山雪に受け継がれつつ、より構成的な画面設計へと展開している点が注目出来ます。

画中の虎は、いかつさよりもどこか愛嬌を帯びた姿で描かれ、その尻尾には〇と×が組み合わったような独特の模様が施されています。

このパターン化された意匠は、毛並みを写実的に追うのではなく、形態を図案化していく山雪の感覚をよく示す部分です。

金雲の柔らかな光の中で、直線的な竹、装飾的な虎、そして胡粉で縁取られた雲が響き合うことで、本図は狩野派の伝統と山雪の前衛的な幾何学性が高次元で融合した、京狩野の精華ともいえる世界をつくり出していると言えます。

狩野山楽・山雪「籬に草花図襖」

次も同じく狩野山楽・山雪の合作とされる妙心寺天球院の襖絵「籬に草花図襖」。横展開に籬が大きく描かれ、それに付随するかのように朝顔を中心とした様々な植物が描かれている作品。狩野山楽・山雪の合作と伝わる中でも、とりわけ幾何学性とデザイン性が際立つ作品です。

画面を水平に区切る籬は、驚くほど正確な水平線、垂直線と一定の角度を保った斜線によって構成され、図形チックな厳密さをまとっています。

その上を、無数の朝顔が画面全体にリズミカルに絡みつくように描かれることで、直線による硬質な構造と、蔓植物の曲線的な動きとが拮抗しつつ調和し、単調さとは無縁の伸びやかなリズムが生まれています。一方で、画面を区切る金雲は、狩野派の伝統に根差した空間処理として重要な役割を担っています。金地は単なる背景ではなく、雲形の起伏によって奥行きや場面転換を生み出し、装飾性と物語性を同時に成立させている点に、狩野派的な空間感覚がよく表れていると言えます。

ここで描かれる朝顔は、写生的忠実さよりも、かたちの単純化と反復によるデザイン性が前面に出ている点が特徴的です。

花弁や葉のフォルムは、ほとんど図案のように整理され、画面の中で一定のリズムを刻む記号として機能しているように感じ取れます。その感覚は、のちに江戸時代後期に活躍した琳派第四の巨匠、鈴木其一が「朝顔図屏風」で示す、花の群生を画面一杯に配した大胆な構成を先取りするかのようであり、後世の琳派的な平面性と装飾性を予感させるものと言えます。

また、前景にスッと立ち上がる菊や百合の花は、垂直方向に直線的に描かれ、後に活躍する琳派第二の巨匠、尾形光琳の「立葵図屏風」にも通じるデザイン性に通ずるものを感じる事が出来ます。

そしてなんといってもこの籬の異様な細密描写。

狩野山雪はこの異常なまでの細密描写を代表作「雪汀水禽図屏風」の波の表現などでも行っていますが本作品でもそれが遺憾なく発揮されているのが見所です。

全体として「籬に草花図襖」は、山雪の理知的な幾何学性と、のちの琳派につながる装飾的デザイン感覚、さらに狩野派由来の金雲表現が、ひとつの画面の中で高い次元で噛み合った作品です。直線と曲線、写生と図案化、金碧障壁画としての格式と、どこか遊び心のある意匠性とがせめぎ合うことで、天球院襖絵群の中でもひときわ洗練された優美な世界が結晶していると言えるだろう。

狩野山楽・山雪「梅・柳に遊禽図襖」

次も同じく狩野山楽・山雪の合作とされる妙心寺天球院の襖絵「梅・柳に遊禽図襖」。春と冬の二つの季節に梅と柳が大胆に描かれている作品。各襖絵に描き分けられている様々な梅の表情を見比べてみるのも楽しいが注目したい襖絵作品はこちら。

“山雪イズム”とも言うべき幾何学的な構成感覚が、随所に息づいたきわめて興味深い作品です。画面を大きく貫く梅の幹と枝の表現。垂直・水平、そしておおよそ斜め45°の線が巧みに組み合わされ、梅の幹はただ自然に曲がるのではなく、理知的に折れ曲がりながら画面を行き交う。その姿は、梅がのたうち回るかのような生命感と、どこか人工的な構造美とを同時に湛えており、後の代表作・妙心寺天祥院「老梅図襖」へと結晶していく造形思考の“前段階”を伝える重要な手がかりとなっています。

老梅図襖は長い歴史の中で改変された過去を持つため、その制作当初の姿を正確に復元することは難しい。しかし同じ山雪による本作をつぶさに観察すると、老梅図へと通じる幹の運動性や、構図上の骨格となる線の扱いがすでにここで模索されていることに気づかされます。

いわば本作は、老梅図襖の構想がどのように育まれていったのかを推し量る“プロトタイプ”のような存在であり、その意味でもきわめて希少な作例と言う事が出来ます。

山雪の幾何学的な感覚は梅の幹や枝の大きな動きにとどまりません。画面を注意深く追っていくと、右端の赤い花、鳥の尾羽、岩の斜面、そこに刻まれた岩肌の線、周囲に広がる植物の葉先、さらには梅の幹が立ち上がる起点部分、梅の幹や枝の屈折角度にいたるまで、多くの要素がほぼ同じ角度の斜め線でそろえられていることに気づく事が出来ます。

これらはバラバラに置かれたモチーフの集合ではなく、斜め方向のベクトルが画面の中を貫いていくように設計された、一種の“構成上の仕掛け”として機能しているのです。山雪が縦横だけでなく対角線的な構成を重んじた画家であることを踏まえれば、こうした斜めのラインの反復が単なる偶然の一致とは考えにくく、むしろ、自然物の形態にさりげなく幾何学的リズムを忍ばせることで、見る者に気づかれそうで気づかれないレベルの“隠し味”として画面に浸透させた、と見るべきだと考えられます。

この仕掛けに一度気づいてしまうと、本作(梅花遊禽図襖)はにわかに表情を変え始める。のびやかに咲き誇る花や、枝に憩う鳥たちの親しみやすいモチーフの背後で、画面全体を支配する不可視の幾何学的フレームが静かにうごめいていることが見えてくるからです。表向きは花鳥風月のやわらかな世界でありながら、その根底には綿密に計算された構図と角度のコントロールが息づいている。この「自然さの中に潜む構成の厳しさ」こそが、山雪という画家の真骨頂であり、梅花遊禽図襖から老梅図襖へと続く系譜を貫く、山雪ならではの絵画思想と言えます。

狩野山楽「龍虎図屏風」

最後は狩野山楽のソロの作品で代表作「龍虎図屏風」。桃山から江戸初期にかけて活躍した京狩野の筆頭・山楽の力量が凝縮した、まさに畢生の大作である。金地六曲一双に描かれた龍と虎という主題自体はよく知られた題材だが、本作が他の同種作品と一線を画しているのは、画面全体を貫く「風」と「速度」の表現である。右隻の龍の周囲には、斜めに走る雲の渦がスピード線のように入り組み、そこに翻る木々や葉の動きが重なることで、龍がこちらへ突進してくるかのような圧倒的な勢いが生み出されています。

その風は右隻にとどまらず、左隻の竹林や草むらにまで及んでいます。虎の背後でざわめく竹の葉や、地を這う草のたわみ方をよく見ると、龍の動きに呼応するように同じ方向へ煽られており、二曲が一続きの空気の流れで結ばれていることがわかります。屏風という形式の中で、左右をまたいでひとつの気流を設計するこの発想は、山楽の構成力の高さを物語るものであり、龍と虎を単に向かい合わせた図にとどめず、「同じ風景の中で起こる一瞬のドラマ」として描き出している点が実にスリリングです。

本作でもう一つ特筆すべきは、龍の描写の異常なまでの精緻さです。

一見すると「金地に水墨で一気呵成に描いた龍図」のように見えますが、その実、画面には幾層にもわたる手の込んだ工程が隠されています。

まず濃墨で輪郭線を引き、龍の基本形を決めた上で、その内部に薄く胡粉地を置き、ごく淡い墨の面を重ねて、身体全体のトーンを整えていきます。

続いて、濃墨で目・鼻・口といった表情の要所を描き込み、さらに中墨・淡墨による短いかすれ線を無数に重ねることで、ザラザラとした鱗や皮膚の質感を浮かび上がらせている。最後にところどころに置かれた金泥と胡粉のハイライト。とりわけ顔の周辺には金泥が集中的に用いられ、光を受けてきらめくその効果が、龍の眼光や口元の迫力を一層強めています。

こうした細部の積み重ねにより、龍は皮膚の厚みや筋肉の張りまで感じさせる、生き物としての重量感とエネルギーを獲得しているのです。「金地に墨一色」と見える表層のシンプルさと、その裏にある気の遠くなるような積層的描写とのギャップこそが、この龍の圧倒的な存在感の源泉と言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は2026年度再評価されるであろう狩野山楽、山雪の作品にこめられた見どころをご紹介させていただきました。「妙心寺 -禅の継承-」では今回ご紹介した作品以外にも多くの作品を実際に見る事が出来ますので是非お楽しみください。

 

 

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