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真の真 表装にて四国八十八ヶ所納経軸を掛軸に | 神戸市
弊社はHPより多くのご要望やご依頼をいただいております。弊社のHPはかなり専門的な内容まで掲載しておりますが、情報を求められる方にとっては参考にしていただけるようでそのようなお声を頂戴すると嬉しく思います。
今回はそんなお問い合わせの中から四国八十八ヶ所納経軸と四国別格二十ヶ所納経軸の掛軸表装のご相談を頂戴したお話のご紹介。通常弊社では納経軸などの仏表装に関しては専門的な用語でいうと 真の行 というスタイル(本仏仕立) or 真の草 というスタイル or もっと簡略化した略仏仕立というスタイルの3つを使う場合がほとんどです。
大和表装 | 真・行・草
「ん? 真って何?」とおっしゃられる方の為に簡単にご説明いたします。
掛軸は種類や用途によっていくつかの表装の形式があります。中国から掛軸が伝わり日本で独自の発展をした表装スタイルを大和表装と言い、中国独自のものを文人表装と言います。
大和表装は用途によって真スタイル、行スタイル、草スタイルに分かれそれぞれのスタイルにも真・行・草のような様式のランクによる違いがあります。
一般的に真表装(真スタイル)は仏画など仏教に関する作品を表装する為の表装形式。行表装(行スタイル)は一般的な画題(山水、花鳥など…というかほぼこの表装スタイルが当てはまります。)を掛軸にする時に用いられる表装形式です。草表装は茶掛表装とも言われ、茶席で飾られる掛軸を表装する際に用いられる表装スタイルです。ほぼ行表装と同じなのですが柱巾が狭いのが特徴です。そして柱巾が狭いので「草の真」というスタイルは存在しません。何故柱が狭いのかに関しては諸説ありますが、一説には千利休は茶道においてわびさびを重んじました。わびさびについて話し出すとまた1記事書けてしまいそうなので簡単に説明すると茶道には禅の精神が色濃く影響していて、禅においては物事の本質や真理などを研ぎ澄まして追及していき悟りを開く事を大切にします。要するに優美で煌びやかな装飾とは相対する価値観です。なので茶道で飾られるその茶会のテーマを表現する最も大切な掛軸の表装はなるべく装飾を排除した質素な表装を求めた為、柱巾を狭くしなるべく落ち着いた裂地での表装が用いられるようになったと言われています。(決して安い裂地を使わなければならないというわけではなく質素の中にも渋みや味わいを表現する事が大切なのです。この感覚は恐らく日本人独特の美意識なので面白いですね。難しいですけど)
話がそれましたが掛軸の大和表装に関する内容は下記のページをご参照ください。
真の真
今回は「 真の真 」表装にて掛軸表装をして欲しいという要望だったのですが色々とお客様よりご質問もいただきましたのでご紹介させていただきます。
「 真の真」では、一文字と風帯に同じ裂地が使われるそうですが、他社の巡礼軸で中廻しと風帯に同じ裂地が使用されているのを真の真としてカタログに明記しています。どちらが正しいのでしょうか?また巡礼軸を仏表装で真の真の表装にすることは稀なのでしょうか?
なるほど。なかなか鋭い質問ですね。これも色々と勉強されて調べられているからこそのご質問ですね。お客様の掛軸表装に対する熱意をビシビシとこのご質問から感じる事が出来ました。
小生のわずかながらの知識と経験からお応えできる精一杯のご説明を下記のとおりさせていただきました。
表装において風帯は 真の真 に限らず一文字の裂地ででも中廻しの裂地ででも行われます。ただ表具の考え方の中で、一文字裂地での風帯の方が位がひとつ高いとされております。これは一般的に一文字裂地には豪華で稀少な金襴裂地が使われる傾向が古来よりあった為だと考えられます。(特に昔は金襴裂地は稀少でした。)ただ中廻しの裂地での風帯が間違いかというとそういうわけではなく、「中風帯(なかぶうたい)」と呼ばれ、表装形式でも使われてきました。
真表装については古来からの主流は真の草~真の行がほとんどです。私自身も古い掛軸の仕立替でお受けするのはほとんどがこのどちらかのタイプです。多くの古い掛軸の資料の中で唯一1点だけ 真の真 の表装を拝見した事はございますがその資料では「中風帯」でした。
元々掛軸自体が明治時代になるまでは武士や神社仏閣、朝廷関係者、町民でも富裕層による所持がほとんどであり、さらに真表装を行うものは寺院関連のものがほとんどでした。その中で特に稀少なものにのみ真の真表装が行われたのではないかと推測されます。しかも現代のように掛軸用の裂地が織られるよになったのは明治時代になってからと言われており、それまでは着物などの装束を解いて掛軸の裂地として使用していたので裂地自体が今の感覚と比べてはるかに稀少な存在だったと考えられます。
稀な 真の真 表装の中で風帯に一文字裂地が使用されているものはさらに稀少・・・という事でほとんど普及する為のサンプル自体が少なく明治時代以降も一般的に普及しなかったのではないかと推測されます。
現代において巡礼軸で 真の真 表装を行う事は確かに稀ですが、それは一般的に知られていないからだと思います。
表具師もお客様がそこまでのクオリティーを求める事が無ければ一般的な真の行~真の草、もしくはもっと簡略化した表装で行う事がほとんどだと思います。ただ求められれば技術的や材料面で現代では特に行えない理由はございません。先般弊社の方でご提案させて頂きました真の真については一文字裂地での風帯を想定しております。
長文での回答でしたがご納得いただけたようで弊社に掛軸表装のご依頼をしていただけました。真の真 にこだわられていたので四国八十八ヶ所の表装には弊社の在庫の中でも最高級の西陣織本金別織裂地であるNO.18「皇輝」にて表装させていただく事となりました。別格二十霊場の方はNO.19の「麗雅」です。弊社の仏表装パターンはこちらをご参照ください。
仕上がった掛軸はこちらです。
四国八十八ヶ所 納経軸 本金別織 真の真 掛軸表装
四国別格二十霊場 納経軸 真の真 掛軸表装
両方の掛軸を並べて飾られるので両方とも 真の真 表装にてお仕立てさせていただきました。四国別格二十霊場は通常の仕立てだと少し四国八十八ヶ所に比べて丈が短くなってしまうので裂地の部分を広めにとりバランスを整えました。
二つとも高野山での箱書を希望されておられましたので弊社の方で代行で承って頂いてまいりました。
二つとも最高級の仕立てにこだわっておられたので太巻と塗箱(二重箱)仕様にてお仕立てさせていただきました。
太巻の扱い方についてはこちらの動画をご覧ください。
納品
作品が仕上がり、お客様にご連絡させていただきました。お近くにお住まいだったので弊社の方にご来店くださりました。出来栄えに非常にご満足いただけ弊社としても大変嬉しく思っております。弊社にご依頼される前に多くの表具屋さんを回って情報を集められたそうなのですがその中で弊社を選んでいただけた事を非常に光栄に思っております。(色々な資料をまとめられた分厚い辞書のようなファイルを見せていただけました。もちろん弊社のメールのやり取りなどもありました(笑))
真の真 での表装はあまり一般的ではない為、ご依頼される方が少ないので弊社としても非常に良い経験をさせていただきました。真の真 での表装をご希望の方はぜひ弊社にまでご相談ください。
四国八十八ヶ所の納経軸掛軸表装についてより詳しく以下の動画で紹介しておりますので宜しかったらご覧ください。