季節掛

日本には四季があり、古来よりその美しい自然の風物を芸術家は作品に表現してきました。季節を楽しむというのは日本人の感覚として生まれながらに備わったものと言えます。

掛軸の世界でも3種の神器と言われる常時掛、慶事掛、佛事掛を揃えた後は、少しずつ季節の掛軸を揃えられていきそれぞれの季節を楽しまれる方が多いです。

日本の四季というのは春夏秋冬の4つのように語られますが厳密に言うと季節には移り変わりがそれぞれ存在するので様々な季節掛が存在します。

一般的に季節掛は描かれている画題の物が実際の物として見られるようになる少し前から飾り始め、その画題の物が旬を終えるまでは他の掛軸に掛け替えるのが習わしです。

今回は、実際に新年から年末までの1年を通してどのような季節掛を飾れば良いかについてご紹介したいと思います。(飽くまで一例です。)

 

1月~2月中旬頃

お正月が終わり、慶事掛を仕舞う段になって次に飾る掛軸ですが一般に「冬掛(ふゆがけ)」と呼ばれる物が飾られます。

 

南天


冬掛として一番メジャーな掛軸は「南天」と言えます。花ではなく赤い実が描かれた物で、この赤色が邪を払うと古来より考えられ江戸時代後期頃には慶事に用いるようになったそうです。

よく福寿草とセットで描かれ、語呂合わせで「難が転じて福と成す」に通じる事から縁起物としても人気の画題です。

南天が雪とセットで描かれる場合も多く、日本では紅白の取り合わせは縁起が良いと考えられている為、このパターンもよく描かれます。

 

雪景


雪景色も良く飾られる掛軸です。雪景の山水画もあれば、雪の景色が美しい名所が画題となる場合もあります。特に神社仏閣の雪景色は非常に美しい為、古来よりよく描かれてきました(金閣寺の雪景など)。

ただ面白いのは豪雪地方に住まわれている方は、毎年雪の処理に対する大変さを身に染みてわかっていらっしゃるので雪に対してそれほど良い印象を持っておらず、雪が大々的に描かれている雪景は敬遠される場合もあります。

地域ごとに好まれる画題が変わってくるというのも面白いですね。

 

椿


椿は花の品種によって開花時期というのはかなり異なるのですが一般的には冬から春にかけて咲く花として掛軸では飾られます。

茶聖・千利休が最も愛した花とも言われており、冬場の炉の季節は茶席が椿一色となることから「茶花の女王」の異名を持ちます。

古くから品種改良が行われており、江戸時代には江戸の将軍や肥後、加賀などの大名、京都の公家などが園芸を好んだことから、庶民の間でも大いに流行し、たくさんの品種が作られました。17世紀に日本から西洋に伝来すると、冬にでも常緑で、日陰でも花を咲かせる性質が好まれ、大変な人気となり、西洋の美意識に基づいた豪華な花をつける品種が作られました。ヨーロッパ、イギリス、アメリカで愛好され、現在でも多くの品種が作出されているそうです。

 

寒牡丹


通常、牡丹は初夏に咲く花なのですが、品種改良がこちらも古来より盛んで冬に楽しめる牡丹として「寒牡丹(かんぼたん)」が生まれました。

牡丹は古来より中国で「花の王様」として考えられてきた非常に高貴な植物。それは日本でも同じで多くの方に昔から親しまれてきました。そんな牡丹を初夏だけではなく冬にも楽しみたいという先人達の想いから生まれたと言えます。

殆どの絵では牡丹の上に藁で作られた傘が描かれています。これがないと通常の牡丹か寒牡丹かを見分けるのが難しいからかもしれませんね。傘に雪が積もっているように描かれているのも情緒があって良いですね。

 

水仙


中国の古典では「仙人は、天にあるを天仙、地にあるを地仙、水にあるを水仙」とされています。水辺に育ち、仙人のように寿命が長く、清らかなという意味から名付けられたと考えられており、その美しさと香りの高さから多くの日本画家が描いてきた冬を表現する画題です。

 

2月中旬頃~3月中旬頃

冬の寒さも徐々に和らいできたこの時期は「冬掛」を掛けっぱなしにするのではなく春の訪れを待つ為の準備をしましょう。

 


上述の冬から春への移り変わりに飾ってほしいのは「梅」の掛軸です。「常時掛」「慶事掛」のページでもご紹介いたしましたが、梅は草花が枯れる冬を越えて春一番に花を咲かすのが梅として古来中国では考えられていました。春一番に花を咲かす特徴が生命力の象徴として考えられており縁起も良く、古来より非常に多くの画家が傑作を残してきた画題です。

紅梅と白梅をセットで描いている場合は、紅白の組み合わせとしてさらに縁起が良いですね。

 

3月中旬頃~4月中旬頃

梅の季節が終えるといよいよ春の到来です。春と言えば日本を象徴する花である「桜」が代表的な画題ですが、その他の掛軸も見ていってみましょう。

 


言わずと知れた日本を象徴する花である「桜」。「春掛(はるがけ)」の代表的な掛軸であり、お花見を楽しむように床の間に飾って楽しんでいただきたいものです。

中国の古い詩に「春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」とあるように夜の桜はまた格別に美しい物。画題としても「夜桜」として描かれている物もまた春の風情を感じられて良いですね。

 

木蓮


桜と時期を同じくするのが木蓮。大きな紫色の花が見事に咲いている様子は気品すら感じる堂々っぷりです。

花が白いハクモクレンと共に春の画題として古来よりよく描かれてきました。

 

その他


この時期に飾られる掛軸はやはり圧倒的に桜が多く、唯一対抗馬になりうる画題が木蓮なのですが、それ以外の画題も全く描かれない訳ではありません。

その他に描かれる画題としては山吹木瓜などが挙げられます。

 

4月中旬頃~5月末頃(梅雨まで)

桜の季節が終わると気候も良く過ごしやすい季節ですね。初夏のこの時期から梅雨の時期までに飾られる掛軸をご紹介いたします。

 

牡丹


「百花の王」とされる牡丹の季節はこの時期、初夏です。大輪の花は見ごたえがあり多くの人の目を楽しませてくれます。

日本画の花鳥画の画題としても必ず上位にランクインする程に描かれている画題です。(桜、梅、紅葉とかと同レベルくらいかな。)

花の王様の名にふさわしい非常に高貴な雰囲気を感じられる花なので芸術家の描いてみたいという心をくすぐるのかもしれませんね。

こちらも紅白で描かれている場合も良く見かけます。

あと、これは誰が言い出したのかわからない出典不明のお話なのですが、掛軸の世界では「牡丹は最高のお花なので来客に対して最高のおもてなしをするという意味あいがあるので季節を問わずに飾る事が許されている花」と言われていたりします。

もちろんご存じない方も多い特別ルールなのですが、この業界で仕事をしていてある一定数そういう風におっしゃられる方と遭遇しているのも事実なので面白いですね。(頑張って出典調べてみます(汗))

 

菖蒲


この時期に飾られる掛軸としては他に「菖蒲」が挙げられます。菖蒲は「勝負」に通じ、刃先が鋭い事から魔除けになると考えられた縁起の良い花で、男児の健やかな成長を願う端午の節句にも飾られる事が多いです。(端午の節句用の場合は兜飾りと一緒に描かれる場合も多いです。)

 

6月頃(梅雨)

初夏の季節が終わるとジメジメとした梅雨の時期がやってまいります。気が滅入りがちなこの時期も掛軸を掛け替えると楽しみに変える事が出来ます。この時期だからこそ楽しめる掛軸をご紹介いたします。

 

紫陽花


梅雨の時期の目を癒してくれる代表的な花が「紫陽花」。色とりどりの花が固まって植えられている場合が多くとても美しいのが特徴です。

古くはかの伊藤若冲も「紫陽花双鶏図」として鶏と一緒に描いた花です。

 

立葵


草丈は1~3mで茎は直立しており、風格のある「立葵」もこの時期に楽しめる画題です。ちょうど梅雨入りの頃に咲き始め、梅雨明けと共に花期が終わる(花茎の頭頂部まで開花が進む)ことになぞらえて、「ツユアオイ(梅雨葵)」という別名でも呼ばれているのだとか。まさに梅雨の時期の為の花ですね。

江戸琳派の祖と呼ばれる酒井抱一が描いた図がとても有名です。

 

7月~8月初旬(お盆まで)

梅雨が明けるといよいよ夏の季節ですね。日本の夏は湿気もあり体感温度が非常に高いのでクソ暑いとよく海外の方から言われます…(苦笑い)。

そんな暑い夏の中にあって涼を感じたいと思うのは今も昔も変わりません。涼しさを感じる事が出来る「夏掛(なつがけ)」をご紹介させていただきます。

 

朝顔


夏の花と言えば真っ先に挙げられるのが優美な夏の風物詩でもある「朝顔」。

朝霧が立ち込める夏の朝、次々と花開く朝顔の姿は情緒豊かで古来より日本人に親しまれてきました。江戸時代には二度の朝顔ブームがあり、品種改良が大きく進んで観賞用植物となった歴史もあるそうです。

一般的な花の色のイメージは青色ですが、紫や白色の朝顔も描かれる場合が多く、色とりどりの花がリズミカルに画面に配置されているのは見ていてとても楽しいものです。

 


夏には涼しげに群れ泳ぐ鮎の姿が夏の風物詩として人気です。渓流に遊び爽やかな清涼をもたらしてくれるその姿は夏の季節掛としても我々を楽しませてくれます。

食材としても人気で、特に天然アユを中心に、出まわる時期が限られていることから、初夏の代表的な味覚とされています。

 

川蝉


美しい羽の色から「動く宝石」と称され、華麗な姿が人気の川蝉。

特に季節を限定する生き物ではないですが、鮮やかな青い羽をもつ川蝉が水辺で見られる姿は大変涼しげである為、一般的に夏の画題として描かれます。

獲物を確実に捕らえる鋭いくちばしを持つことから、祈願成就の吉鳥としても考えられています。

その他


代表的な夏の掛軸は上述の通りですが、それ以外にも百合つゆ草金魚など様々な掛軸が飾られます。

 

8月下旬(お盆明け)~9月末頃まで(仲秋)

お盆が終わるとまだ残暑はありますが、掛軸の世界ではそろそろ秋支度を始める時期です。

日本の秋も初秋、仲秋、晩秋と長く、飾られる物も様々です。

まずは初秋の頃に飾る「秋掛(あきがけ)」をご紹介いたします。

 

桔梗


秋の花のようなイメージが強い桔梗ですが、実際の開花時期は六月中旬の梅雨頃から始まり、夏を通じて初秋の九月頃までです。

秋の七草のひとつなのでそのイメージが強いのかもしれませんね。

星の形に小さく開く花が上品で古来より日本人に好まれてきました。特に武士の間では漢字の旁りの部分が「更に吉(さらによし)」と読める事から人気があり、家紋などにも多く取り入れられたり部屋の名前(「桔梗の間」)にも用いられました。

この時期に是非桔梗の掛軸を飾って旬を楽しんでいただきたいものです。

 


日本にある5つの節句の最後が「重陽の節句」で、旧暦で行われていた頃はその時期に菊の花が咲く時期だったので別名「菊の節句」とも呼ばれていました。

この行事では邪気を払い長寿を願って、菊の花を飾ったり、菊の花びらを浮かべた酒を酌み交わして祝ったりしていました。

現在では新暦の9月9日なのでその頃よりも少し早く「重陽の節句」が行われますが、この時期に菊の掛軸も飾って楽しんでいただきたいものです。

日本の皇室の紋章が菊花紋であるように非常に高貴なイメージがあり、古来より多くの絵師が競って描いてきた人気の画題です。

 

秋草


秋の七草(女郎花、ススキ、桔梗、撫子、藤袴、葛、萩)は秋を代表する草花。七つのうちのひとつだけでも描かれる場合もありますし、3~4種類の組み合わせで描かれる場合もありますし、七つ全てを描いた物もあります。組み合わせが豊富なので古来より好まれて描かれてきました。

特にこの時期だけに限った画題ではありませんが、桔梗を含んでいる場合はこの時期に飾ってほしい掛軸です。

 

10月~11月末頃まで

いよいよ秋の音色を感じられるこの季節。過ごしやすい行楽シーズンで多くの人々の活動が活発化される時期です。

その為、日本では「読書の秋」「食欲の秋」「スポーツの秋」など様々な物と結びつけられる季節です。

もちろん「芸術の秋」でもあります。気候的にも過ごしやすく、色鮮やかな自然も楽しめるこの季節は古来より芸術家の感性を刺激してきたことでしょう。多くの秋をテーマとした傑作が生まれています。

この時期の掛軸をご紹介させていただきます。

 

紅葉


「春は桜、秋は紅葉」と言われる程、日本の秋を美しく彩る風物詩。桜と比べると見頃の時期も長いのも好まれる所以ではないでしょうか。

鮮やかな赤や黄色の葉は、絵を描く際には絶好のモチーフ。芸術家魂に火をつける魅力が備わっています。

作品の画面に鳥を配して花鳥画とする場合もあれば、引きのアングルで風景画としても描かれる非常に画家からすると絵にしやすい画題とも言えますね。

見頃が長いのでこの時期から飾りだして晩秋の時期までずっと飾って楽しまれる方もいらっしゃいます。

 


柿は秋を代表する画題のひとつ。秋になると日本各地でオレンジ色に実った柿の木を見る事が出来、その鮮やかな色から好んで画題として選ばれてきました。

また「嘉来(かき)」とも読める事から縁起の良い画題ともされています。

稲穂


この時期は農家の方にとっては収穫の時期です。日本人にとって秋というのは収穫に対する神への感謝の時期でもあります。神輿を担いでお祭りを行うのもその意味合いが込められています。

その為、稲穂の絵というのは意外に昔から多く描かれてきました。

秋を象徴する掛軸として楽しんでいただける掛軸です。

 

12月

いよいよ秋の終わりが近づいてくる晩秋の時期。「師走」とはよく言った物で冬支度に年末年始の準備と忙しく、どこかソワソワして落ち着かないといった時期になります。

さて、こんな時期ですが多くの方は紅葉や柿の掛軸をそのまま12月まで飾っていらっしゃると思います。

しかし中には「晩秋にだけ楽しめる掛軸は何かないのか?」というご質問を頂戴する事もございますので、ここではそんな時期に飾っていただける掛軸をご紹介させていただきます。

 

山茶花


この時期は平地の紅葉もそろそろ終わりを迎える時期。そんな時に楽しめる花が山茶花です。

どこか寂しげで清楚な面影を漂わせた山茶花の花は、日本人に好まれ、観賞用として地位を築いています。

画題としても人気があり、花の少ないこの時期を彩ってくれる掛軸です。

 

烏瓜


烏瓜は晩秋の頃になるオレンジ色ないし朱色の実が画題としてしばしば描かれます。近年ではインテリアなどの用途として実が使われているそうです。

晩秋のこの時期に飾れる数少ない掛軸の一つです。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

以上が新年から年末までの季節掛の流れです。

もちろん飽くまで一例に過ぎないのでこれ以外にも様々な季節掛が存在しますがメジャー所を抑えているとわかりやすいですね。

12月の晩秋の季節が終わるとお正月になり慶事掛を飾り、また新しい一年がスタートします。

皆さんも季節ごとの掛軸を少しずつ揃えられて楽しまれてはいかがでしょうか?

主な掛軸

CEO Message

あなたと掛軸との懸け橋になりたい


掛軸は主人が来客に対して季節や行事などに応じて最も相応しいものを飾り、おもてなしをする為の道具です。ゲストは飾られている掛軸を見て主人のおもてなしの気持ちを察して心を動かす。決して直接的な言葉や趣向ではなく、日本人らしく静かにさりげなく相手に対しておもてなしのメッセージをおくり、心をかよわせる日本の伝統文化です。

その場に最もふさわしい芸術品を飾り、凛とした空間をつくりあげる事に美を見出す・・・この独特な文化は世界でも日本だけです。

日本人が誇るべき美意識が詰まった掛軸の文化をこれからも後世に伝えていきたいと我々は考えています。



代表取締役社長
野村 辰二

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会社概要

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商号
株式会社野村美術
代表取締役
野村辰二
本社
〒655-0021
兵庫県神戸市垂水区馬場通7-23
TEL
078-709-6688
FAX
078-705-0172
創業
1973年
設立
1992年
資本金
1,000万円

事業内容

  • 掛軸製造全国卸販売
  • 日本画・洋画・各種額縁の全国販売
  • 掛軸表装・額装の全国対応
  • 芸術家の育成と、それに伴うマネージメント
  • 宣伝広告業務
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