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四国八十八ヶ所巡礼の想いを込めて:タイのお客様と創り上げる掛軸の物語
四国八十八ヶ所巡礼は日本人のみならず海外の方にも大変人気です。
納経軸に朱印を集め、弊社に掛軸表装をご依頼に来られる方も多くいらっしゃいます。
今回はそんな四国八十八ヶ所の納経軸の掛軸表装依頼をタイのお客様より頂戴したエピソードをご紹介させていただきます。
ある日、弊社にそのタイのお客様より一通のメールが届きました。
内容は日本での旅行中に四国八十八ヶ所を巡礼し、その旅の証であるご朱印を集めた掛軸を制作したいというご希望でした。
数日後、ご夫婦で来店されたお客様は、英語が堪能なご主人と、常に穏やかな笑顔を浮かべる奥様でした。
異国からの訪問者との出会いは、私たちに新たな物語の幕開けを感じさせました。
ご夫婦で紡ぐ、特別な掛軸の物語
ご主人が主に英語で対応してくださいましたが、奥様も熱心に掛軸の仕様や裂地選びに参加され、ご夫婦で相談しながら、最終的に佛表装パターンNo. 08の赤春日に決定されました。
こちらの裂地を選ばれたのは台紙の仏さまの衣と台座の色も赤系統でよくこの記事が似合うと考えられたからでした。
お二人の旅の思い出を形にするお手伝いが出来ることがとても嬉しく思いました。
四国八十八ヶ所巡礼の道程と、満願への道のり
お客様ご夫妻は、日本に長期滞在しながら、車で10日間かけて今回の四国八十八ヶ所を巡礼されました。
しかしお礼参りの事をご存知なかった為、霊山寺と高野山の朱印が納経軸に押されていないという状況が接客の際に発覚いたしました。
霊山寺は「発願所(ほつがんしょ)」として知られ、多くの巡礼者が結願後に再び訪れます。ここでは、無事に巡礼が終わったことを報告し、初心に立ち返る意味が込められています。
高野山、特に奥の院は弘法大師(空海)が眠る聖地として、多くの巡礼者が最終的にお礼参りに訪れる場所です。
どちらも絶対に巡らなければいけない訳ではないのですが、近年販売されている納経軸の台紙の中にはこの2ヶ所を巡って朱印を貰って完成させるようにデザインされている物も増えており(なので霊山寺は通常の朱印場所とお礼参りの朱印場所の2ヶ所が納経軸内に存在します)、そこが抜けていると少し不細工な見た目になってしまいます。
お客様に状況をご説明すると霊山寺についてはお客様ご自身で再度訪れて朱印をいただく形になりました。
その後、霊山寺の朱印を得た納経軸の台紙を再び弊社にお持ちいただき、有料のオプションになりますが弊社が高野山へ代理参拝しご朱印をいただく事になりました。
なんとかお客様の掛軸を素敵な物にしたいという我々の想いにお客様も大変喜んでくださいました。
温かい心遣いと、忘れられない時間
裂地の打ち合わせが終了した後、私たちが別の作業をしている間に奥様は提案した裂地をそっと元の状態に巻いて戻してくださっていました。
その細やかな気遣いに、スタッフ一同感動しました。ご主人も非常に温厚で、お二人の温かい人柄に触れ、私たちも心温まる時間を過ごすことができました。
朱印リレー
裂地の打ち合わせが終わり、いったんお客様に納経軸をお返しし、第一札所の霊山寺でご朱印を貰ってきていただきました。
こちらはお客様からの朱印完了した際のお写真です。残りは右側の空白になっている高野山のみです。
お客様が再び納経軸の台紙を預けに弊社にご来店くださり、弊社の方で高野山の朱印をいただいてきました。
これで準備完了です。ここからお客様の完成した納経軸を弊社の方で打ち合わせした表装裂地で掛軸に仕立てていきました。
完成した掛軸とその後の物語
多くのドラマがあったお客様の四国八十八ヶ所の納経軸でしたが、ついに掛軸に仕上がりました。お礼参りの朱印の部分が思い出深く感じられます。
完成した掛軸はお客様の娘さんが住む九州へ送られました。後日、ご夫妻が娘さんと会う際に、初めて掛軸と再会することになりました。
そして、後日、お客様から、ご自宅に飾られた掛軸の写真が送られてきました。その美しく飾られた掛軸の写真を見ると我々も感無量の気持ちになりました。
お客様との絆を深める
弊社は掛軸の制作を通してお客様の旅の思い出を共に作り上げていくことを大切にしています。
今回のお客様ご夫妻との出会いは、私たちにとっても、忘れられない素晴らしい思い出となりました。
弊社の職人たちは今日もお客様の想いを形にするため、日々技術を磨いています。
そして遠い異国からのお客様にも、日本の文化と技術の素晴らしさを伝えていきたいと考えています。